ドイツ人気質ということでは、こんな経験がありました。入社3年目に、ドイツの中央研究所に出向した際に、1週間ほどして私の歓迎会を開いてくれることになりました。仕事が終わってから、約25人でイタリア料理店に行ったところ、紙と鉛筆が配られて「各自、食べたい料理を書いてくれ」と言われました。当時の私はまだ、ドイツ語がよく分からなかったのですが、なんとか書きました。その後、お店のウェイトレスが全員の分を回収し、それから続々と料理が運ばれてきます。私は、ピザを一枚頼みました。

 ところが、歓迎会が終わる直前にある慣行を知りました。最終的に、各自が食べた料理は各自で精算するのです。確かに、たくさん飲み食いする人もいれば、そうでない人もいることから、割り勘ではなく、各自で精算するのは合理的です。私は、職場の面々に歓迎はしてもらえたのですが、自分の分は自分で精算することになりました。私の歓迎会だからご馳走してもらえるのかと思っていたら、そうではなかった(笑)。

 また、ドイツでは仕事を持つ夫婦がレストランで食事をする際にも同じく別々に精算しています。まれに、夫婦で同じ料理を頼んでいることもありますが、それでも別々に精算しています。私は、せっかくなら異なる料理を頼んで、2人で少しずつシェアして楽しめばよいのではないかと考えていましたが、「これは私のお皿」「あなたのお皿」ということが明確になっています。ドイツ人の根底には、そういう考え方がある。

 だから、「このピザは美味しいので、一切れいかがですか」ということはなく、勧めたとしても、ドイツ人は手を付けません。それは、良し悪しの問題ではなく、そういう気質であるということ。言うなれば、狩猟民族と農耕民族の違いなのかもしれません。

――ところで、個人的な話をお聞きします。もともと日本で研究者の道を歩む可能性があった石田社長は、なぜ欧州の化学メーカーに就職したのですか。

 振り返ると、私は研究者には向いていなかった。研究の世界には、博士号を持つ優秀な人材がゴロゴロしています。私は、研究者としての道を突き詰めることよりも、実際のビジネスにどう生かすかということの方に関心があった。