──数学の重要性を感じたのはいつですか。

川上量生カドカワ社長かわかみ・のぶお/1968年、愛媛県生まれ。京都大学工学部卒業。97年、ドワンゴ設立。2011年スタジオジブリ入社、鈴木敏夫氏の見習を経験。15年6月、KADOKAWA・DWANGO(現カドカワ)社長。 Photo by Yoshihisa Wada

 決定的に必要だと感じたのはAI(人工知能)の研究です。2014年に「ドワンゴ人工知能研究所」を設立しましたが、AIエンジニアたちとの会話で、数学力不足を痛感しました。

 僕自身もプログラミングの素養はありますので、これまでエンジニアとの議論についていけないことはほとんどなかった。ところが、ディープラーニングは説明されても、数学的なところが分からない。現代数学の教養がなければ、ディープラーニングの仕組みや可能性が理解できないなと実感したのです。

 また、エンジニアは最新の技術動向をカバーするために、膨大な知識を継続的に覚え続けることが必要ですが、数学は量より質なのです。部下のエンジニアは忙しいので、数学を真剣に勉強する時間なんてない。だから数学を勉強して、現代数学の用語を会話にちりばめると、エンジニアに対して精神的に優位に立てる。「マウントを取れる」ということです(笑)。

──個人的な家庭教師をつけているとも聞きました。

 2016年の正月に数学の「群論」に関する本を読んでいて、「そういえば、10年くらい同じ本を読んでいるな」と気づきました(笑)。これは誰かに教えてもらわないと、一生かかっても数学はたいして理解できないと感じてツイッターで家庭教師を募集し、3人にお願いしました。

 そのうちの1人は社会人向けの数学塾の講師で、企業相手にもよく教えているそうです。なので、社内から一緒に勉強する希望者を募集して、ゼミ形式で線形代数から教えてもらっています。

──社内での勉強会は、仕事にも役立つのでしょうか。

 いいえ。そもそも会社の経費ではなく、僕のポケットマネーで開催しているので、業務ではなく、趣味の部活のようなものです。ですから、確率や機械学習など仕事にすぐに役に立ちそうな実用的なテーマは禁止し、勉強会は「純粋数学」だけに限定するというルールを最初に決めました。