横浜市神奈川区で2016年、旧・大口病院(現・横浜はじめ病院)で患者が相次いで不審死した点滴中毒死事件で、神奈川県警は7月7日、殺人容疑で元看護師の女を逮捕した。疑惑が浮上し、殺人事件として特別捜査本部が設置されてから約1年10ヵ月。事件はようやく動き出したが、点滴による殺人事件と聞くと仙台市泉区の「北陵クリニック筋弛緩剤点滴事件」を思い出す方も多いのではないだろうか。類似点と相違点などから事件の背景、今後の捜査の展開を探る。(事件ジャーナリスト 戸田一法)
無差別大量殺人の疑い濃厚
神奈川県警特別捜査本部が殺人容疑で逮捕したのは久保木愛弓容疑者(31)。逮捕容疑は16年9月18日午後、大口病院に入院していた横浜市青葉区の西川惣蔵さん=当時(88)=の点滴に消毒液「ヂアミトール」を混入し、中毒死させた疑いが持たれている。
久保木容疑者は「間違いない。申し訳ないことをした」と容疑を認め、他にも約20人の点滴にヂアミトールを混入したことをほのめかしているという。
西川さんが死亡した2日後には、同じ部屋に入院していた横浜市港北区の八巻信雄さん=当時(88)=も死亡。他にも、病死とされていた高齢男女2人の体内からヂアミトールの成分が検出された。大口病院は、内科や整形外科、リハビリ科などが専門だったが、入院患者は寝たきりや介護が困難な高齢者の他、末期がんなどの終末期(ターミナルケア)の緩和治療で「病院というより、ほとんどホスピスに近い」(関係者)。患者の自然死にまぎれ、犯行に及んだとみられる。事件との関連は不明だが、16年7月から9月までに入院患者48人が死亡していた。
久保木容疑者と患者はいずれも「看護師」と「患者」という接点以外に、個人的な関係はないとされる。久保木容疑者は「死んで償う。死刑にしてほしい」とも供述。神奈川県警特別捜査本部は「時間をかけここまでこぎつけた。他にも事件性がある死亡案件がある」として、全容解明に意欲を示した。