軍が“暴走”するシナリオは
大いに想定できる

 ビジネスでなくとも、有料施設の利用時に「軍人無料」だったり、公共施設の利用時に「軍人優先」という場面や状況は中国社会に普遍的に存在しており、そもそも中国の一般大衆の間には「軍人は特権的地位を利用して好き勝手、やりたい放題に振る舞う悪者」という類の認識が広まっていた事実は否めない。

 習近平政権が“群衆路線”を随所で強調し、農民や労働者を中心に“社会の弱者”に寄り添う政策を大々的に打ち出すことで共産党の正統性を強固なものにしようとしてきた経緯を顧みれば、今回の『意見』は想定内であるし、当然の帰結とも言えるだろう。

 一方で、潜在的な不安要素も見いだせる。

 それは、端的に言えば、解放軍の共産党に対する不満や抵抗が爆発し、その過程であるいは結果的に軍隊が何らかの形で“暴走”するという事態であり、リスクである。

 上記のように、習近平政権成立以来、共産党による絶対的領導下にある解放軍は、過去のどの時代よりも国ではなく党の軍という地位に甘んじている。そのような現状に対して、解放軍の関係者は政策、地位、待遇といったあらゆる角度から不満を蓄積させてきている。“反腐敗闘争”によって一切の賄賂や腐敗、そして贅沢が禁止されてきた。今回の『意見』を通じて、軍隊内部で生き延びるため、私益・私欲を肥やすためのビジネスも禁止された。一切のグレーゾーンを排した、党(の方針)への絶対服従を命じられているのである。行動として服従したとしても、内心穏やかでないどころか、不満を募らせている軍人はゴマンといるであろう。

 実際に、冒頭の元空軍幹部を含め、気心の知れた軍人は酒の席で、筆者に対し習近平への不満や不服を爆発させている。

 そういう感情が“臨界点”に達した時、若干極端な表現になるかもしれないが、軍人が党・政府・国に対してクーデターを彷彿とさせるような行動を起こす、何らかの引き金が原因で公共の場で、一般民衆に対して発砲する、台湾や他国に対して軍事的行動を起こすといった形で“暴走”するシナリオは大いに想定できる。

 今回の『意見』はそういうシナリオに現実味を持たせ、リスクを増長させる動きであると筆者は認識・解釈している。

(国際コラムニスト 加藤嘉一)