フランス代表の20年ぶり2度目の戴冠とともに、約1ヵ月にわたって世界中を熱狂させたワールドカップ・ロシア大会が幕を閉じた。興奮の余韻が残る中で、さらに評価を上げているのが2ゴールをあげて西野ジャパンのベスト16進出に貢献したMF乾貴士だ。国際サッカー連盟(FIFA)の公式サイトが選ぶ、今大会で「サプライズを与えた5人」にも選出された小柄なドリブラーは、30歳を超えてなぜ大ブレークを果たしたのか。開幕前に決断したラ・リーガ1部の古豪レアル・ベティスへの移籍を含めて、波乱万丈に富んだサッカー人生の軌跡を振り返った時に、乾が常に追い求めてきた、サッカーを「楽しむ」というキーワードが浮かび上がってくる。(ノンフィクションライター 藤江直人)
「サプライズを与えた5人の選手」に選出
日本代表入り当落線上からの名誉
4年に一度のサッカー界最大の祭典が閉幕しても、称賛する声は収まるどころか、ますます高まっている。20年ぶり2度目となる世界制覇の雄叫びを、フランス代表がモスクワの夜空へとどろかせてから一夜明けた16日、乾貴士に日本人選手として初めての勲章が加わった。
国際サッカー連盟(FIFA)の公式サイトが、ワールドカップ・ロシア大会で「サプライズを与えた5人の選手」を発表。イングランド代表DFキーラン・トリッピアー(トッテナム・ホットスパー)、開催国ロシア代表MFデニス・チェリシェフ(ビジャレアル)らとともに乾が選出された。
下馬評を覆す快進撃を演じた西野ジャパンで、全4試合に出場して2ゴールをマーク。セネガル代表とのグループリーグ第2戦で決めた芸術的な一撃と、敗れはしたものの、ベルギー代表との決勝トーナメント1回戦で突き刺した無回転のミドルシュートは、今も世界中のメディアから絶賛されている。
開幕前はほとんど無名の存在だったからこそ、FIFAも驚きを隠せなかったのだろう。フィールドプレーヤーではただ一人、30歳に達している乾をリストの中に加えた理由をこう説明している。
「素早いパスと止まらないダイナミズムは、まさに古典的なサムライブルーの象徴となった。サイドで見せた創造性、鮮やかなゴール、予測不可能な閃きでまばゆい輝きを見せた」
一躍世界から注目される存在となった乾だが、右太ももに負ったけがの影響で、2ヵ月前は代表メンバー入りへの当落線上にいた。何よりも日本代表に継続的に名前を連ねるようになったのは、昨年5月以降のこと。ベテランの域に差しかかっていた、小柄なドリブラーはなぜ大ブレークを果たしたのか。
波瀾万丈に富んだサッカー人生を振り返ってみると、乾がキーワードとして掲げてきた「哲学」が浮かび上がってくる。それは、サッカーを楽しめているかどうか――。原点は滋賀県近江八幡市で生まれ育った乾が兄に憧れる形でボールを追いかけ始めた、小学校1年生の時に抱いた初心にある。