彼を見舞った一度目の危機は、1991年にアイスランドを襲ったインフレだ。今回ほどではないが、アイスランドはかなりの頻度でインフレに見舞われている。その一つをまともに受け、自宅を含めた4軒の不動産は、借金を返済するために全て売却した。住む場所も失った。

 しかし、彼はへこたれない。何もない土地にある廃屋を、リノベーションを施すことを条件にタダで借りた。

 そこでは当初、商売はしていなかった。ところが次第に、彼のレストランの常連だった客から、また再開してほしいというリクエストが舞い込むようになった。その期待に応えるため、彼は自宅スペースに一日一組だけを受け入れるシステムを考えだす。単価をおさえるため、お酒は持ち込み自由。他では味わえないタイ料理、一日一組――その貴重さが評判を呼んだ。「こんな辺鄙なところまで誰も来ないよ」と友人に揶揄されながら始めたが、あっという間に2年先まで予約がいっぱいになった。

アイスランドで伝統的な芝の家。幻想的な風景が広がる。Bogi Jonsson提供

 何でも自分で作れて、アイデアが溢れ出すと止まらないボイエさん。わざわざ遠くまで来てくれた客をそのまま返すのはかわいそうだ。彼はレストランの隣に、アイスランドの伝統的な芝の家を建てた。彼が手がけた建築物の写真をみると、素人の彼がつくったとはにわかに信じがたい出来映えだ。そしてレストランで食事をした客が、結婚式やパーティーにそうした新たな施設も利用するようになった。

 この芝の家が完成したのは、2007年。その翌年にまたしても経済危機が彼を襲った。彼が外貨建てで借りていた6500万クローナの借金は、一夜にして1億2000万クローナに膨れ上がった。

 これ以上レストランを続けても借金が膨らむだけ――。そう判断した2011年、店を閉め、家を競売にかけた。