アイスランドでは20年以上にわたって、初等教育を中心に、子供たちが日常生活から問題を発見し解決する創造性を養うための授業が行われている。その授業の狙いや実施されている内容、そうした教育が行われることになった背景を踏まえ、東日本大震災を経て変化を必要としている日本への示唆を探った。
本連載では前回まで、金融危機を経て新たな模索をはじめたアイスランドの背景と現状について記述した。今回からは、具体的なキーワードを軸に、変化に対応しようとするアイスランドの強さについて、数回にわたって紹介する。
まず初回のキーワードは「教育」だ。アイスランドでは1990年代より初等教育を中心に、「イノベーション教育」と銘打ち、子供たちが日常生活から問題を発見し解決する創造性を養うための授業が行われている。
一体、どんな授業なのか。どのような背景からこの授業が始まったのか。また、東日本大震災を経て変化を必要としている日本に、どのような示唆があるのか。
国ぐるみで20年にわたって実施される実践教育
アイスランドには、NKG (Nýsköpunarkeppni grunnskólanemenda)と呼ばれる大会が存在する。英訳すると「ナショナル・イノベーション・コンペティション」。過去20年にわたって実施されてきた。日本で言うところの文部科学省に加え、アイスランドの特許庁や農業組合までが実行委員会として名を連ねる。年に一度、子供たちが日常生活の中から具体的な問題を見つけ出し、解決策を提示する。毎年数千もの応募者からから選ばれた入賞者は、実践で活躍する技術者やデザイナーなどとともに、日本でも最近話題のファブラボという工房で最終作品を創りだす。優勝した子供たちは、大統領から直々の表彰を受けるというおまけつきだ。
私たちは数ある学校の中で、レイキャビク近郊のガルザバイル市にあるホフススタダスコーリという小学校を訪れた。前述のNKGで、過去4年に渡りもっとも多くの入賞者を輩出している学校だ。
アイスランドの義務教育は10年である。6歳から16歳までの一貫教育だ。ホフススタダスコーリは、義務教育のうちの始めの6年間にあたる、1年生から6年生が学ぶ校舎である。
光の差し込む校舎。まず目につくのは、所狭しと飾られた作品たちだ。壁という壁に生徒たちの作品が飾られ、隙き間はほぼない。学校の5つの信条が書き込まれたタイル画も、生徒たちが1年越しで制作した力作だ。