アイスランドからみる日本の企・起業事情
どうしてアイスランドは、起業家を多く輩出できるのか。研究所などが発表した複数の報告書を紐解いてみたものの、お隣の北欧諸国などと比べて格別アイスランドが「起業しやすい国」であるという分析は見つからなかった。
だとすれば、この起業活動率の高さはどう説明できるのか。推測になるが、やはり国の小ささを各人が強く意識していることに起因するのではないだろうか。前回も述べたが、アイスランド人は生活のなかから問題を発見する能力に長けている。しかし、何しろ32万人の人口だ。発見した問題の解決策、ましてや商品を既に持っている人は、国のなかにはそうそう見つからない。「自分がやらなくてどうする」――小さな国だからこそ、それぞれが自発的に問題に取り組んでいる。それがアイスランドで起業家をうむ土壌になっている。
翻って、日本はどうだろうか。前述のGEM報告書にもあるように、日本は起業に関しては後進国だ。最近ではこの状況を打開しようと、様々な組織が起業を志す人の集う場を作ったり、アイデアを出し合うワークショップを開催するなどしている。また企業によっては、社員の才能を再発掘しようと、イントラプレナーの試みも模索している。
しかし、アイスランドでみた起業家の実態は、そうした仕組みを遥かに凌ぐインパクトがあった。ボイエさんは資格も、資本も、国の後ろ盾もなかった。そして二度の金融危機の煽りを受け、住む家を失い、商売を畳んだ今も、溢れ出るアイデアと実現に向けて絶え間ない情熱を燃やす。そして思いついたアイデアについて熱く語る彼を見ると、実は彼のそうした前向きな姿勢こそが、金融危機後のアイスランドの原動力であると気づかされる。
あらゆる数字や報告書が物語るとおり、日本で起業しづらいことは確かだろう。融資の受けにくさや書類手続きの煩雑さなど、制度面の改善が必要であることは間違いない。しかし、それだけで起業が活発化するとは思えない。個々の組織や地域が取り組むべきは、経済システムの混乱に左右されることなく、新しい物を作り続けていきたいと思う個人を育んでいくことである。