TBSラジオ『Session-22』でパーソナリティを務め、日々、日本の課題に向き合い続けてきた荻上チキによる新刊『日本の大問題――残酷な日本の未来を変える22の方法』が7月19日に刊行された。【経済】【政治】【外交】【治安】【メディア】【教育】――どこをみても「問題だらけ」のいまの日本の現状と、その未来を変えるための22の対応策がまとめられた同書のエッセンスを紹介していきます。
政治参加のあり方は多様でいい
政治参加と聞いて、多くの人が真っ先に頭に思い浮かべるのは「選挙」です。もちろん選挙は重要です。しかし、選挙だけが政治参加ではありません。「どうせ自分の一票では世の中変わりはしない」と嘆く前に、私たちには選挙以外にさまざまな政治参加の方法があることを知る必要があります。
議会制民主主義は、民主主義を実現するひとつの手段ではありますが、その全てではありません。また、議会制民主主義を補完するために、さまざまなオプションをつけることが可能です。
政治運動のオーソドックスな手法としてよくいわれるのは、「政治家に何らかの圧力をかける」というものです。その具体的な方法論、レパートリーは、これまでにも数多くありました。たとえば、「圧力団体・利益団体を作って、政治家に圧力をかける」といった方法が、その典型です。
「政治家に圧力をかける」という方法の中には、「署名」を集めたり、「デモ活動」を行ったり、「自前のメディア」を作ってビラや冊子を配布したり、「パレードや講演会」を開催したり参加するといった具合に、「世論をアピールする」ことで政治家に間接的に圧力をかける方法があります。そして、「陳情」「ロビイング」「議員勉強会」への参加といった形で、「議員と親しくなって耳打ちする」という方法もあります。前者は間接的な環境づくりですが、後者はかなり直接的な方法です。
「世論をアピールする」方法としては、他にも、シンポジウムや記者会見などを開いて、メディアに報道をしてもらうという手段もあります。ちなみに、会見の開き方は一見すると難しそうですが、実は担当する分野の記者クラブに連絡すれば教えてくれたりもします。日時を設定し、メディアに呼びかけ、「報じる価値がある」と思われる内容を発信する。当事者の異議申し立てであったり、専門家らの声明であったり、署名やデータの公表であったりですね。
これら圧力をかけるという方法は、すべて「この論点や世論は無視しがたい=票を左右しうる」「この問題に取り組めば、政治家としての役割を果たせる」と思わせる状況を作ることで、政治状況を動かしていくというものです。圧力をかけることで、立法や法改正を求めたり、予算をつけてもらったり、補償などを求めたりするタイプの運動は、これまで数多く存在してきたし、そして、これからも重要な存在であり続けるものです。
選挙制度を「アップデート」するには
人々の政治参加の方法が多様化するのであれば、それに対応した制度や仕組みも改善することが必要です。
ここでは、選挙制度に関する提案をしたいと思います。先述したように、現状の選挙制度は一強多弱とポピュリズムを同時に生みやすいという課題を抱えています。
では、どうすればもっとマシな選挙制度にできるでしょうか。
たとえば小選挙区制に対しては、2回投票制を導入することが考えられます。これを導入しているのは、フランスの大統領選挙や下院選挙です。
大統領選挙では、ある候補が、第一回投票で絶対多数(有効投票総数の50%プラス1票)を獲得できれば、その時点で当選します。でも、どの候補者も絶対多数を得られなかった場合には、上位2人の候補者の間で、第二回投票が行われ、多いほうが当選する。
また、フランスの下院(国民議会)では、小選挙区制を実施していますが、ここでも2回投票制を採用しています。1回目の選挙で得票率が50%を超えた人がいない場合には、絶対得票率が12・5%(有権者数の8分の1)を超えなかった人を外して、2回目の投票をする。
このように2回の投票を行うと、2回目の投票では、なってほしくない候補を落とそうという意識が有権者に働きやすい。つまり事実上、マイナス票を投じられるような仕組みになっているのです。
一方でこの仕組みでは、少数派は勝ちにくい。最終的には多数派政党が連携して、少数派を落とすことができてしまう。
つまり、今まで声をくみ上げられなかった少数者の意見をすくい上げられる仕組みにはなっていない。そういう課題は残るものの、ポピュリズムの瞬間的な沸騰で間違ってしまうことにブレーキを掛けることには長けているのが2回投票制です。
他方で、オランダのように完全な比例代表制を採用している国もあります。完全な比例代表制であれば、有権者の民意の割合に応じて、議員数が決まるので、小さな政党でも議員を輩出できるチャンスが高まります。