2022年のワールドカップ・カタール大会でベスト8以上を目指す日本代表の新監督に、2年後の東京五輪に臨む男子代表を率いる森保一監督(49)が就任することが決まった。2000年のシドニー五輪でベスト8、2002年のワールドカップ日韓共催大会ではベスト16に日本を導いた、フランス人のフィリップ・トルシエ氏以来となる兼任監督は、7月26日に都内で急きょ開催された就任会見の席上で、強化スケジュールの大半が重なる2つカテゴリーを率いていく上での決意を2つの単語に集約させた。それは「覚悟」と「感謝」――。日本サッカー界の成り立ちを熟知した、日本人指揮官だからこそ胸中に抱くに至った2つの思い。その背景にある事情と歴史を追った。(ノンフィクションライター 藤江直人)
トルシエ氏以来の“二刀流監督”も
当時とまったく異なる状況に抱く「覚悟」
超がつくほどの真面目な性格。絶対に自分を飾らない誠実な人柄。そして、黒子に徹することをよしとする謙虚な存在感。誰からも慕われ、厚い信頼を寄せられてきた人格者らしい第一声だった。
東京・港区内のホテルで、7月26日午後6時35分から急きょ開催された記者会見。別の場所で行われていた日本サッカー協会(JFA)の理事会で次期日本代表監督として承認され、契約書にサインしたばかりの森保一氏が、JFAの田嶋幸三会長、関塚隆技術委員長とともにひな壇に座った。
田嶋会長と関塚委員長に続いてマイクを取った森保新監督は、メディアからの質疑応答に移る前の挨拶、いわゆる所信表明に実に15分近くもの時間をかけた。しっかりと言葉を選び、やや緊張した面持ちを浮かべながら、2年後の東京五輪に臨む男子代表チームに続き、4年後のワールドカップ・カタール大会を目指すA代表の監督も務める激務へ挑む決意を2つの単語に集約させた。
「2つの代表チームを率いていくには、覚悟が必要だと思っています。そして、我々日本代表が本当に多くの方に支えらえて活動できることにも感謝しています。『覚悟』と『感謝』。この2つ気持ちを抱いて、職責をまっとうしていきたいと思っております」
五輪代表監督とA代表監督の兼任は、日本サッカー界がプロ時代を迎えた1992年以降に限れば、2000年のシドニー五輪と2002年のワールドカップ日韓共催大会で指揮を執った、フランス人のフィリップ・トルシエ氏以来、2人目となる。
もっとも、当時とは状況がまったく異なることが、森保新監督に「覚悟」という言葉を使わせた。ワールドカップ開催国としてアジア予選を免除されていたトルシエ監督は、ある意味で1999年及び2000年の前半におけるA代表の結果を度外視することが可能だった。