自己超越の先に成功がある

真の自己実現は、自己を忘れることで実現される松山 淳(まつやま・じゅん)
企業研修講師/心理カウンセラー 産業能率大学(経営学部/情報マネジメント学部)兼任講師
1968年生まれ。成城大学文芸学部卒業後、JR東海エージェンシー(広告代理店)に入社。同社退社後、2002年アースシップ・コンサルティング設立。2003年メルマガ「リーダーへ贈る108通の手紙」が好評を博す。読者数は4000名を越える。これまで、15年にわたりビジネスパーソン等の個別相談を受け、その悩みに答えている。2010年心理学者ユングの性格類型論をベースに開発された国際的性格検査MBTI®の資格取得。2011年東日本大震災を契機に、『夜と霧』の著者として有名な心理学者のV・E・フランクルに傾倒し、「フランクル心理学」への造詣を深める。ユング、フランクル心理学の知見を活動に取り入れる。同年Facebookページ「リーダーへ贈る人生が輝く言葉」の運営開始。フォロワー数は6300名を越える。2016年産業能率大学情報マネジメント学部の兼任講師。2017年産業能率大学経営学部兼任講師に就任。経営者、起業家、中間管理職など、リーダー層を対象にした個別相談(カウンセリング、コーチング)、企業研修、講演、執筆など幅広く活動。


 フランクルは「自己超越」をこう解説しています。

「自己超越とは、人間存在がいつでも、自分自身ではないなにものかへ向かっているという基礎的人間学的事実のことである。人間存在はいつでも、自分自身ではないなにかや自分自身ではないだれかへ、つまり実現すべき意味や、出会うべき他の人間存在へ、向かっている」※2

 自分を越えた存在、つまり、他人や仕事や社会や自然と関わり、それらから求められる事に没頭している時、その人に潜在している真の人間性が発揮され、

 よりよい心理状態が実現されるのです。その結果として、自分の望んでいる成功が(スポーツ選手にとっては勝利が、ビジネスマンにとっては仕事の高い成果が、人間にとっては幸福が)実現されてくるのです。

 ここで強調すべきことは、フランクルが「成功とは、自己超越の結果に過ぎない」と考えていたことです。

 フランクルは、自己を中心とした欲求から描かれる成功(お金持ちになりたい、組織で高いポストにつきたい、起業して大成功したい、人から尊敬される成功者になりたい)を追い求めるのではなく、自己超越を心がけ目の前にあるすべき事に没頭するような生き方を推奨しています。

 生きる意味を実現する自己超越の先に、私たちが求める成功があるのです。

 チクセントミハイは、『フロー体験 喜びの現象学』で、フランクルが書いた『意味の探求』(Man’s search for Meaning)から言葉を引用し、その考えに賛同しています。引用箇所がこちらです。

「成功を目指してはならない──成功はそれを目指し目標にすればするほど、遠ざかる。幸福と同じく、成功は追求できるものではない。それは自分個人より重要な何ものかへの個人の献身の果てに生じた予期しない副産物のように……結果として生じるものだからである」※3

 名経営者と言われる人々、例えば、松下幸之助や稲盛和夫はリーダーとして「利他の精神」がいかに大切かを説きます。「まず自分」ではなく、「まず他者」に利をもたらそうとする行いが、巡り巡って自分のところに返ってきて自分に利をもたらすのだと。

「自利利他」という言葉もあります。それはまさに「自分個人より重要な何ものかへの個人の献身」を諭す言葉であり、「自己超越」という概念に通底する東洋思想だといえます。