「どんな時にも人生には意味がある。未来で待っている人や何かがあり、そのために今すべきことが必ずある」ーー。ヴィクトール・E・フランクルは、フロイト、ユング、アドラーに次ぐ「第4の巨頭」と言われる偉人です。ナチスの強制収容所を生き延びた心理学者であり、その時の体験を記した『夜と霧』は、世界的ベストセラーになっています。冒頭の言葉に象徴されるフランクルの教えは、辛い状況に陥り苦悩する人々を今なお救い続けています。多くの人に生きる意味や勇気を与え、「心を強くしてくれる力」がフランクルの教えにはあります。このたび、ダイヤモンド社から『君が生きる意味』を上梓した心理カウンセラーの松山 淳さんが、「逆境の心理学」とも呼ばれるフランクル心理学の真髄について、全12回にわたって解説いたします。
自分の可能性が制約されているということが、どうしようもない運命であり、避けられず逃れられない事実であっても、その事実に対してどんな態度をとるか、その事実にどう適応し、その事実に対してどうふるまうか、その運命を自分に課せられた「十字架」としてどう引き受けるかに、生きる意味を見いだすことができるのです。
『それでも人生にイエスと言う』(V・E・フランクル[著]、山田邦男 松田美佳[訳] 春秋社)
絶望の状況でも意味が満ちる「態度価値」
フランクルは、人生を意味で満たす「3つの価値」(創造価値、体験価値、態度価値)を提唱しました。本連載では、第4回で「創造価値」について、第5回で「体験価値」について解説しました。本稿では残りの「態度価値」について述べていきます。
「態度価値」とは、現実に対する自身の「とる態度」によって実現される価値のことです。
フランクルは脊髄腫瘍を患った広告デザイナーの例をあげています。その人は、腫瘍が原因で手足が麻痺し、働くことが困難になりました。仕事を通してこの世界に価値(創造価値)を生み出すことができなくなったのです。仕事の喪失は、「生きる意味」を大きく劣化させ「生きがい感」を削いでいきます。
彼は病院暮らしとなり、自身の活動範囲が著しく制限されるようになりました。それでも彼は、人生を意味で満たそうと努力しました。病院で読書に取り組み、音楽に耳を傾け、他の患者と会話をし、人生から価値をうとける「体験価値」を実現していったのです。
創造価値を奪われても、人間には体験価値があります。彼の生活は受け身になりましたが、体験価値を受け取ることで、人生の出す問いに答えていくことができました。そのことで、生活に意味が生まれ、彼は自分の人生を見捨てなかったのです。
ところが病が進行すると、書物を手にすることも、音楽も聴くことも、会話をすることすらできなくなりました。創造価値だけでなく体験価値を実現する機会をも奪われたのです。まさに絶望的な状況です。
「それでも生きることに意味があるのか」と疑わざるを得ない状況です。