チェックポイントは大きく3点ある。

 1点目は、座席数の違いだ。座り形式で22席だとすると、立ち形式では50席と、2倍以上を確保できると踏んだ。

 2点目は、立ち形式であれば、座り形式では実現困難な回転数を期待できると考えた。

 3点目として、そうした想定で試算した結果、客単価が3000円であってもフード原価率55%、ドリンクと合わせた原価率45%で採算が見込めるとそろばんをはじいた。

 最初は食材に原価を掛けることにおっかなびっくりだった布川だったが、慣れてくると、使いたい食材でメニューを作れる自由度の高さを満喫するようになった。

 原価率30%の縛りがあると、料理で使うオマールエビは通常、カナダ産のものになるという。しかし、「俺の」に来て坂本から「原価を掛けろ」と言われた布川は、念願だったフランス・ブルターニュ産のオマールエビを店で提供することができた。アワビも普通は冷凍ものしか使えないが、生きているアワビを使えたという。

 ただ、本当に湯水のごとく食材におカネを使えるわけではない。前述の通り、料理長は店舗PLの責任も持っているからだ。

「原価率200%というメニュー、例えば1000円で仕入れたものを500円で売ってもいい。その代わり、100円で仕入れたものを1000円で売る努力もしなくてはいけない」(布川)

 会計についてある程度学んだ布川は、あるとき坂本から「顧客が幸せになって、われわれも幸せになれる値決めは一点のみ」だと教わった。ただ、その「一点」をどのように見つけたらいいかは自分で考えるようにと諭された。

 唯一もらったヒントは、「最初は『原価率』ではなく、粗利(売上総利益)を見る『額の経営』をしなさい」というものだった。