そんなシリアスな家族介護の描写とは不釣り合いに、すっとぼけた言動と行動を見せる森繁久彌の演技が笑いをそそるのですが、当時は介護や福祉のサービスが国民の間に定着しておらず、同居する家族、中でも昭子に介護の負担が集中している様子が分かります。

 では、映画では認知症について、どんな認識を見て取れるでしょうか。こんなセリフがあります。

昭子 「あなたも来年は受験で大変だけど、おじいちゃん頼むわね。ママも夕方はできるだけ早く帰るようにするけど…」
敏 「僕、大丈夫だよ、(注:茂造を)相手にしてないから。あれはもう人間じゃないな」
昭子 「なんてこと言うの、子どもに返ったのよ、おじいちゃんは。
敏 「子どもじゃないよ、動物だよ。犬や猫みたいに自分に必要な相手しか覚えてないんだから」
昭子 「じゃママは何よ」
敏 「飼い主さ、フフッ、いつも餌やる」
昭子 「(注:あきれつつ)フッ、そんなひどいこと言わないでちょうだい」

 実際には敏は介護に協力的という設定で、家を飛び出した茂造を昭子と一緒に探す場面もあるのですが、それでも今の感覚で考えると、「動物だよ」とはひどい物言いです。

 家を訪ねた福祉事務所の笈川という女性の職員(野村昭子)が昭子と交わす会話も印象的です。

昭子 「あの?、『特別養護老人ホーム』っていうのは何でしょうか」
笈川 「ええ、それはまあ寝たきり老人とか、人格欠損のある老人を収容するところなんですよ」
昭子 「人格欠損?」
笈川 「ええ、お便所が1人でできなかったり、排泄物を食べてしまったり、体になすりつけたりですね」
昭子 「まあ、そんな人があるんですかぁ?」
笈川 「お仕事を持っていらしては、老人の世話は難しいと思うんですけど、誰かが犠牲にならなくては。私たちもやがては老人になるんですからね。お話では(注:茂造が)夜中に飛び出したとおっしゃっていましたね。(略)そういう老人はどこのホームも収容しないんですよ。とても手が足りませんからね。
昭子 「それじゃ私はどうなるんでしょう。老人ホームでも引き取らない老人を私一人が面倒見るんでしょうか?」
笈川 「立花さん。老人性うつ病とは老人痴呆もそうなんですが、これは精神病なんです」
昭子 「精神病…」
笈川 「ええ、まあどうしても隔離なさりたいなら、今のところ精神病院しかないですねえ」

 この後、茂造が排泄物を体になすりつける場面が出てくるので、会話は衝撃的なシーンに向けた布石となっているのですが、認知症になった高齢者の尊厳に配慮している印象はありません。