D社労士は話を続けた。

「どうしても全員出勤にこだわるなら、Bさんの要求通り会社が旅行キャンセル料を払って出勤してもらったらどうなんだ!?」
「えっ?キャンセル料は会社負担なのか?」
「当然でしょ。そうしないとBさんは納得しないよ」

 D社労士の見解は以下の通りである。

(1)「大掃除への参加」という理由では、Bに対する有給の時季変更権の行使はできない。当初の予定通りの有給を認めるか、B家の旅行代金のキャンセル料を負担して出勤させるかは会社で決めること。
(2)A社長がBの妻に対して直接謝罪をする必要はないこと。
(3)事務所内の衛生環境には普段から気をつけること。
(4)大掃除を習慣化する場合は、○月の第○曜日等、前もって日程を決めておくこと。
(5)Bが有給を取ったことに対して、不利益にならないようにすること。

有給日を変更させるか、
旅行のキャンセル料を払うか

 D社労士との電話を切ったA社長はすぐにBに伝えた。

「B君、予定通り有給を取ってくれ。それと、奥さんには『心配をかけてすまなかった』と伝えてほしい」

 Bは納得した表情で答えた。

「わかりました。妻には自分から社長の謝罪を伝えておきます」

 A社長はBに対して旅行のキャンセル料を支払ってまで出勤させる必要はないと判断したのだ。そして大掃除のリーダーは、A社長が自ら行うことにした。

 翌週の月曜日、A社長と社員たちは猛暑の中、事務所内の大掃除を終日行った。散らかり放題だった商品や備品を整理整頓し、汚れていた窓や床、社員たちの机等はホコリを払い、洗剤できれいに拭いた。大量に出たゴミは廃棄、事務所の中は見違えるほどすっきりし、ピカピカになった。

 そして何よりの収穫は皆で協力し合い、ワイワイやりながら大掃除を行ううちに、「会社をもっと良くしていこう」という強い連帯感が生まれていたことだった。

 大掃除終了後、近くの居酒屋で慰労会を行い、大いに盛り上がった。A社長は大掃除と慰労会を恒例行事とし、来年以降は8月第2月曜日に行うことを提案、皆はその場で了承した。また、業務の都合で大掃除は1年に1回しかできないため、「整理整頓・清掃リスト」を作成、社員に配布して職場環境の月1回点検を徹底することにした。