「最初は、専門的な知識のあるEコマース関連のコンサルと事業支援を柱に据えて、安定的にキャッシュを稼ぎつつ、将来的には自社サイトを立ち上げ、あるモノを売ることを目標に掲げていたんですが、目論見通りにはなかなかいかなくて…」

起業したものの、生活は苦しい山下さん。出張中のビジネスホテルで。
起業したものの、うまくいかないと嘆く山下さん。出張中のビジネスホテルで

 “あるモノ”とは何か。

「命綱のようなアイデアなんで詳しくは言えませんが、ある体験のことです。体験を売るんです」と山下さんは目を輝かせるが、今のところそれを具現化する資金も、人的余裕もないという。

「機を見て、大手企業や投資家にぼくのアイデアを話し、資金調達したいとは考えています。でも、まだその段階じゃない。アイデア自体をもう少しブラッシュアップして、事業としての実現可能性を高める必要性を感じています。今はまだ、半分夢物語のようなアイデアなんで」

 近所の量販店で買ったというブルーのワイシャツに、チノパンといういで立ち。いかにも実直そうな顔つきからは、ITベンチャーの社長というよりも、学校の先生か銀行員のような雰囲気が漂う。大手IT企業時代の年収は約700万円。福利厚生も手厚く、ブラックとは程遠い社風だったという。

 そんな安泰な立場を捨ててまで、なぜ山下さんは起業の夢を見たのだろうか。そこには「意識高い系」と呼ばれる人たちが陥りがちな罠があった――。

“セミナー渡り鳥”と化していた社員時代
起業をあおる意識高い系界隈の闇

 山下さんの立ち上げた会社は資本金300万円。従業員は今のところ社長の山下さん1人だけだが、いかにも今どきのITベンチャーといった感じの日本語をもじった横文字の社名がつけられ、名刺の肩書には“CEO”の文字が。