日本製紙が年賀はがきへの古紙配合比率の表示を実際より高く「偽装」してきた問題は、他の再生紙に飛び火しただけでなく、製紙業界全体が偽装に手を染めていたことをあらわにした。
長年、偽装が放置されてきたのは、業界全体に「悪いことではない」との認識があったからだ。
「今回の古紙配合比率が違っていた問題は、わかりやすくいえば、牛肉を豚肉と言って売っていたようなもの。紙のユーザーは品質が高く、製造コストも高いものを安く手に入れられた。食品偽装とは根本的に違う。現場には偽装との意識が低かった」
再生紙偽装に手を染めていたある大手製紙会社の元社長は、本誌取材に開き直ったようにこう話すなど罪の意識は感じられない。
それには理由がある。多くの人は、「再生紙は環境に優しい」と思いがちだが、必ずしも正しくない。古紙100%で紙を作るよりも、適度な古紙配合比率か、時には古紙ゼロで作ったほうが、トータルのCO2排出量が少なくなるケースが多い。今現在、再生紙に求められている古紙配合比率では、CO2抑制のための理想的な比率にはなっていないのだ。
というのも古紙を回収し、製紙工場まで持ち込むと輸送トラックからCO2が排出される。最近は雑誌付録にCD-ROMなどが増えて回収古紙に混入するため、再利用するのに必要な作業工程がふくらんでいる。さらに紙需要の旺盛な中国に買い負けているため、品質も低下している。今の日本でこれ以上、古紙配合比率を高めることは環境にはよくない。
特にコピー用紙やはがきのような、強度、白さ、均一性が求められる紙は、古紙100%では過度な漂白や添加物が必要となり環境負荷は大きい。海外ではコピー用紙は古紙ゼロが常識である。
結局、製紙会社にしてみれば古紙配合比率を勝手に低くすることで環境負荷を低減し、バージンパルプ配合比率を高めてコストもかけていたのだから、悪いことをしている意識はなかった。
しかし、もちろんそれで許されるわけはない。そもそも表示する成分を満たしていなければ景品表示法違反であり、特注品であったならば契約違反になる。加えて官庁への納入はグリーン購入法に基づいて税金が使われていただけに法令遵守の姿勢が問われる。
本来、製紙業界は日本の再生紙に関する非常識な誤りを指摘し、あるべき姿にリードすべきだった。官庁や民間企業に求められるがままに過度に古紙配合比率の高い再生紙を作り、100%再生紙が売れ始めると右に倣えで各社が追随する。製紙業界には日和見的な体質が染み付いている。
大半の製紙会社の社長は偽装を知らなかったとし、続投を宣言した。だが、ある販売代理店幹部は「あれだけ大規模な偽装を知らないはずがないし、知らなかったらそれも大問題」と旧態依然とした体質にあきれ返る。
製紙業界では2007年、15社25工場でばい煙の排出基準違反が発覚したばかり。
相次ぐ問題噴出に製紙業界が失った信頼はあまりに大きい。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 野口達也)