大奥の魅力
(写真はイメージです)Photo:PIXTA

【おとなの漫画評 Vol.3】
『大奥』よしながふみ
既刊15巻 2018年8月現在 白泉社

 徳川幕藩体制下、男が奇病によって激減し、女がすべての要職を占めた江戸城の権力模様を描く漫画である。歴史改編SFの大長編コミックだ。白泉社の隔月刊誌「MELODY」に2004年8月号から連載され、単行本第1巻は2005年10月に刊行されている。

 2010年には映画化され、その2年後にはテレビドラマと映画の続編も公開されている。単行本第1巻発売からすでに13年、映画第1作公開から8年も経っており、すでに物語は終わっているような気分かもしれないが、じつは雑誌連載は現在も続き、単行本の刊行も続いている。

 隔月刊誌の連載なので、間隔が長い。なかなか単行本にまとまらない。単行本の刊行は13年間で15巻だから1年間に1.15冊の超ゆっくりペースだ。ふつうならば物語の展開を忘れてしまう。

 しかし、『大奥』は物語の展開を忘れることはない。なぜなら、徳川時代の史実を追っているからである。架空の人物も登場するが、要人は実名で出てくる。ただ、男女が逆転しているのである。名前がそのままで男女が逆転しているので、そのディストーション(歪み)で目が覚める。

奇病で若い男性だけが激減、
家光の時代から将軍が「女」に

 第1巻は、男女逆転の発端から始まる。1620年代、将軍家光の時代、農村の少年がだれも経験したことのない伝染病で死亡する。症状から赤面疱瘡(あかづらほうそう)と名付けられた。天然痘を思わせる強力なウイルスに起因すると思われる。またたくまに全国へ広がった。パンデミックである。発症するのは若い男性のみ、致死率が高い。

 3代将軍徳川家光も感染し、死亡する。この事実は春日局によって秘匿され、家光の落胤(娘)に子どもを産ませようと画策する。つまり、ハンサムな若い男性を大勢調達し、城内に置いておくのである。これが大奥である。

 紆余曲折を経て娘(千恵)は生来の聡明さを発揮し、なんと統治能力を身につけて女将軍の成立を公言する。この異次元世界では本当の(?)女徳川家光の誕生だ。

 家光以降、大奥は若い男性の集団、将軍と幕閣は全員女性の体制となる。この家光の物語は、じつは単行本第1巻には出てこない。だいぶあとなのだ。第1巻は赤面疱瘡のパンデミックと、それから80年後にあたる6代将軍家宣の時代を描いている。

 女将軍の統治下、男の人口は女の4分の1で均衡し、すべての労働力は女が担っている。男は生殖のために大事に育てられている。当然のことながら、吉原は男が女にサービスする風俗街と化している。