たとえ負けても悔いのない美しい思い出を残してあげたいものだ大会本部は「支配者」の姿勢を改め、たとえ負けても悔いのない美しい思い出を残してあげることに、全力を尽くすべきではないだろうか(写真はイメージです) Photo:PIXTA

夏の甲子園、第100回全国高等学校野球選手権記念大会は、大阪桐蔭(北大阪)の史上初となる2度目の春夏連覇や準優勝した金足農(秋田)の躍進、初のタイブレーク方式の適用、史上初の逆転サヨナラ満塁本塁打、総入場者数が初の100万人突破など、さまざまな話題で盛り上がった。一方で、大会本部が選手らのパフォーマンスなどに横やりを入れ、ネットで炎上する騒動も。なぜ大会本部はこうも「規制」したがるのか。(ジャーナリスト 戸田一法)

夢かなったが「めっちゃ怒られた」

 全国紙の運動部デスクによると、今回は記念大会だからか、大会本部には開幕前からピリピリした雰囲気が漂っていたという。運動部デスクは「例年そうだが、今回は特に『つつがなく進行させ、無事に終わらせたい』という意向がうかがえた。選手らには窮屈な大会になりそうだなと感じていた」と話す。

 運動部デスクの懸念は、開幕前にすでに的中していた。

 7月31日の出場校による甲子園球場見学会で、白山(三重)の川本牧子部長が打席に立ち、バットを手に豪快にエアスイング。東拓司監督や選手たちから「先生。打って、打って」とリクエストされ、いったんは固辞したものの、その優しさに応じたほほえましいワンシーンだった。

 川本部長は少年野球チームの監督だった父親の影響で野球を始めたが、中学以降は女性であるため野球部に入れず、中学・高校はソフトボール部員だった。そんな川本部長にとって、甲子園は“あこがれの地”。その経緯を知る監督や選手が、甲子園の「打席」をプレゼントしたのだ。

 しかしその後、大会本部に制止され、注意を受けた。川本部長は「めっちゃ怒られた。『打席は部長先生でも立ってはダメです』って」と肩をすくめていたという。