認知症リスクと見なされる「飲酒」だが、全く嗜まないのもリスクになるらしい。
先日、英国医師会雑誌に認知症とアルコール摂取との関連に関する「ホワイト・ホール2試験」の結果が報告された。
同試験は、ロンドン市の事務所に勤務する公務員(登録時年齢35~55歳、男女比は2対1)1万0308人を対象とした疫学調査で、1985~88年の登録以降、定期的な健康診断などにより、フォローアップされてきた。
今回、研究者らは認知症および心血管疾患(脳卒中、心不全など)と飲酒の関連に注目。データから中年期(平均年齢50.3歳)の飲酒量を割り出し、(1)非飲酒群、(2)週に1~14単位(適度な飲酒群)、(3)週14単位以上(飲み過ぎ群)の3群間で影響を検討。また、初老期までの長期的な飲酒量の変化も加味して解析を行っている。
追跡中の23年間に認知症を発症したのは397人で、診断時の年齢は、(1)非飲酒群が76.1歳、(2)適度な飲酒群が75.7歳、(3)飲み過ぎ群は74.4歳だった。
飲酒のタイプ別に発症リスクを比較したところ、非飲酒群は適度な飲酒群より認知症リスクが1.47倍高いことがわかった。
飲み過ぎ群の発症リスクは適度な飲酒群と同程度だったが、飲酒量が週に7単位(アルコール度数5%のビール、350ml×7本に相当)増えると、リスクが17%有意に上昇している。
また、中年~初老期に「適度な飲酒」を続けていた群が最も認知症発症リスクが低い一方、長期の非飲酒群ではリスクが1.74倍に、適度飲酒から徐々に量が減った群で1.55倍と、「飲酒=認知症」という通説に反する結果が判明した。研究者は「非飲酒者の認知症リスクは直接的ではなく、むしろ動脈硬化症や高血糖による心血管疾患に由来する」と推測している。
2016年、英国は1週間の推奨飲酒量を男女ともに従来の21単位から14単位へ引き下げた。アルコール度数13%のワインなら毎日グラス1杯までだ。
この改訂についてはいまだに賛否両論だが、今回の報告は妥当性を裏付けたといえそうだ。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)