倉井敏磨(三菱ガス化学  代表取締役社長 )
くらい・としきよ/1952年、新潟県生まれ。東北大学の工学部応用化学科を卒業後、三菱ガス化学に入社。約18年間の研究職生活(工場勤務が中心)を経て、94年~98年までインドネシアの子会社に出向する。トレードマークの口ひげは、イスラム教文化圏に赴任するに当たり、先輩のアドバイスに従って現地の生活習慣に馴染む必要性から生やし始めた。2002年、機能化学品カンパニーの企画開発部長。08年、執行役員兼機能化学品カンパニーのプレジデント。以降、取締役兼常務執行役員、代表取締役兼専務執行役員を経て、13年に代表取締役社長に就任。生まれつき、嗅覚が鋭く、分析装置にかけても判別できない微妙な臭いの差を嗅ぎ分けられる。Photo by Shinichi Yokoyama

「米中貿易摩擦は、中国の動きから始まった」と言えるでしょう。

 確かに、米国にとっては、中国製造2025の動きは脅威以外の何物でもないはずです。私は、中国政府は真剣に取り組んでいると受け止めています。

 例えば、数年前に中国政府が発表した「製造強国戦略研究」では、あらゆる角度から主要国における製造業の競争力(実力)を分析している。この指数によれば、トップの米国が160点、2位の日本は120点、3位のドイツは115点、そして4位の中国は80点だった。中国の競争力は、米国の半分しかない。

 しかも、中国政府は、米アップルのiPhoneは実質的に中国国内で組み立てられているのに、下請けや孫請けの中国企業が得られる対価は微々たるもので、お金を稼ぐ付加価値のほとんどが外国企業に吸い上げられているということに気付いている。中国は明確に自らのポジションを把握した上で、「いつまでに何をやるか」という優先順位を決めて突き進んでいます。

 ただし、こうした中国の動きは、私たちにとって大きなビジネスチャンスになる。中国政府が、国策として、中国企業をバックアップしながら半導体ビジネスの育成・強化に力を入れていることは、半導体を製造するさまざまなプロセスで必要になる「超純過酸化水素」(最高品質の過酸化水素)を供給できる当社にとって追い風になるからです。現時点では、中国の化学メーカーはまだ品質の高い洗浄水を製造することができません。

 過酸化水素については、私たちには1933年(昭和8年)からの蓄積があり、世界シェアは約65%でトップの供給事業者です。世界のあちこちで半導体の産業クラスター(集積地)が立ち上がる動きに合わせて、韓国、米国、シンガポール、台湾、中国で、工場などを新設して拠点を増やしました。

 現在、中国では、凄まじい勢いで半導体関連のプロジェクトが動いています。今後は、私たちの技術やノウハウなどの知的財産権を守りながら、伸び続ける需要に対応していく。これまで中国には半導体の工場は存在せず、過酸化水素も必要とされていませんでしたが、これからは間違いなく増えます。

――しかし近年の中国は、国家ぐるみで動いています。また、世間を「あっ」と驚かせるような産業スパイ事件も、世界中でしばしば発覚しています。