世界には、まだ通信インフラ環境が整備されていない国と地域に住む人々が多くいる。そうした状況を言い表わした「O3b」という用語を耳にしたことがあるだろうか。O3bは「Other 3 billion」の略で、その数は、約30億人と言われている。通信インフラが整備されていないということは、その国と地域は、経済圏としてもまだ途上の段階とも言える。そこにビジネスチャンスを感じ、衛星通信インフラの整備計画を着実に進める宇宙ベンチャー企業が増えている。彼らはなんと、宇宙空間に数百から数千機、将来的には1万機程度の衛星を打ち上げて、通信インフラ環境を整えようとしているという。各国で盛り上がる宇宙ビジネスの現状をリポートする。(齊田興哉・日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 都市・地域経営戦略グループ マネジャー)
1万機もの衛星を打ち上げる
スペースXの途方もない野望
まず、はじめに紹介するのは、米国の宇宙輸送サービス企業「SpaceX」(スペースX)だ。創立者の1人はかのTesla(テスラ)社の会長兼CEO、イーロン・マスク氏である。同社はベンチャー出身で、今やロケットの打ち上げで世界No.1になったと言っても過言ではない。そのSpace Xは、衛星ビジネスでも事業展開を計画している。
Space Xは小型から中型クラスの通信衛星で大規模コンステレーションを構築し、世界規模で通信環境を提供することを計画している。この計画は、「Starlink」と呼ばれ、今後5年間で4425機の衛星を打上げ、最終的には、約1万2000機の衛星を打上げる計画のようだ。米国連邦通信委員会FCCに申請し、許認可を得ている。
2018年2月22日、Space Xはこの大規模衛星コンステレーション計画Starlink計画の構築のために、試験機2機を打ち上げ、成功した。Falcon 9ロケットによって打ち上げられたこの衛星2機は、「Tin Tin A」と「Tin Tin B」という名だ。この名称は米国の有名な冒険小説「The Adventures of Tintin」に由来しているという。