スタンド業界は、1店舗のみを経営する事業者が全体の7割を占める。そんな中小零細企業の集まりであるスタンド業界には、自動車業界が進める「脱ガソリン車戦略」がもたらすマイナスの影響は、想像以上に大きい。

 「去年はハイブリッド車の台数が一段と増えて、目に見えてガソリン販売量が減った。もともと販売量の少ない事業者は影響をもろに受けて、経営が一気に苦しくなっている」(前出の社長)

 実際に、17年3月には国内のハイブリッド車や電気自動車(EV)の登録台数は、合計で660万台(自動車検査登録情報協会)を突破。今後も増加を続けることは確実で、スタンド業界を覆う需要減の影響は色濃くなる一方だ。

 だが、スタンド大量閉鎖は、決して需要者側の要因だけではない。むしろ、供給者側の要因が拍車を掛けていると指摘する声は多い。

 その代表が「地下タンク問題」だ。スタンドはガソリンや軽油、灯油などの危険物を扱うため、建物の規格や販売方法が厳しく規制されている。その規制の一つに、店頭在庫のガソリンや軽油は、地下に埋設されたタンクに貯蔵するというものがある。

 だが、多くの地下タンクは、埋設後40年以上がたち、老朽化が進んでいる。万が一、破損・漏えいすれば、土壌汚染や火災の恐れもある。そこで総務省は消防法を改正。埋設後40年超の地下タンクは、11年2月から13年2月までの2年間で改修が義務付けられたのだ。

 当然、改修には費用が掛かる。国は補助金を用意したが、標準的なスタンドで300万~400万円の自己負担が発生することになった。

 「降って湧いたような話。私らみんな、給料も取らず、アルバイトの給料を払って残ったカネでやっと食っている。300万円用意して工事しろって言われたって、カネの工面なんてできない」。北関東のスタンド経営者は憤る。

 「カネを借りようにも、銀行も信用組合も冷たい。そりゃそうだよ、この先、人も車も減るのに、スタンドにカネを貸すわけがない」

 別のスタンド経営者も苦しい経営状況を吐露する。

 無理して地下タンクに投資しても、回収する前に事業が立ち行かなくなるかもしれない。後継者もいないし、いっそのこと閉店して、事業を畳もう──。そう考える事業者が続出。改修期限の13年、年間過去最大規模の1066事業者が業界を去った。

 そして、地下タンクによる廃業続出問題は、来年以降、第二のヤマ場が訪れると危惧されている。消防庁のデータによれば、埋設40年超の地下タンクが、19年と20年に続出するからだ。早くも業界内では、13年並みに廃業する事業者が出ると懸念され始めた。

石油元売りも無関係ではいられない

 スタンドの大量閉店を受けて、エネルギーの安定供給を最重要課題とする資源エネルギー庁は、消防法の規制緩和を検討。異業種参入を促し、新たな石油製品の販売網構築へ、本腰を入れ始めたのだ。

 こうなれば、JXTGホールディングスや出光興産など、ガソリンや灯油等を生産する石油元売りも無関係ではいられない。新たな販売形態を主体的に考え出さなければ、長年、君臨してきた石油業界の頂点から、引きずり下ろされる可能性すらあるだろう。

 そのとき、鍵は何になるのか。

 石油流通を専門とする東洋大学経営学部の小嶌正稔教授は「必ずしも今あるスタンドが必要なのではなく、ガソリンも供給する新たな場所や方法が必要だということ」と話す。つまり、単なるガソリン供給だけではなく、電動車ステーションなど、新機能を備えた“社会インフラ”に変貌しなければ、生き残れないということだ。

 「さよなら、ガソリンスタンド」。石油業界は今、不都合な現実を直視することが求められている。