●備品を壊す
●お部屋に落書きをする
●深夜でも大騒ぎして周りのお部屋に迷惑をかける
●無理難題のリクエストを「サービス業だろ!」と言って頻繁に強要する

 ……など明らかに常軌を逸したマナー違反の場合です。

 当時のボクにとって不思議で衝撃的だったのは、このような振る舞いをするのは圧倒的にお金持ちに見える方に多いことでした。

 ですが、経験を重ねるうちにわかってきたのは、本物のお金持ちはこのようなことは一切しないということです。
「お金持ちといっても、いろいろなタイプがいるんだな」と、それまで個人的に抱いていた「お金持ち=スゴイ人」という画一的なイメージが消え失せていったのは事実です。

 もしお客さまの故意でホテル側に損害があった場合には、お客さまに連絡して損害補償に関することを確認するわけですが、お支払いいただくことになった場合でも、ご本人は来館されず、代理としてご友人や会社のスタッフが来られることがほとんどでした。
 また、お支払いいただく時点でも多くの不当に思えるクレームを告げられることが多かった印象があります。

 ホテルで働いているうちに、チェックインや来館でお客さまがホテルに入ってこられた時点で、「どんな人か?」が自然とわかってくるようになります。
 これは、然るべき対応を少しでも事前に想定することが最善のサービスの提供につながるため、大切な能力となりますが、前述したようなマナー違反をしてしまうお客さまにはわかりやすい特徴が見られることがほとんどでした。

 それは、とにかく面倒臭がる態度をとる、ということです。

 宿泊証への記入をお願いした際に、「俺に書かせるのか?」と言ったり、使ったペンを放り出したり、お支払いの際にクレジットカードやお金を投げてくる、などといったことがありました。
「取れよ」と言いながら、ブラックのクレジットカードを顔に投げつけられたことも多々ありました。

 もしかしたら、お客さまにはその前に何かイライラされることがあったのかもしれませんし、ボクが気づかないだけで、ボクの対応に不足や失礼があったかもしれません。しかし、そういったお金持ちは、いつでも同じ態度をとられているのをお見かけしました。
 横柄、人の話を聞かない、自分の主義主張を押し通す、まわりへの配慮がない、物を粗末に扱うなどが共通していた特徴です。

 とは言え、それでもお金持ちであることは努力あってのことでしょうし、最終的に自分がどういう態度を取ろうが、自分自身が困らないのならば別にどうでもいいのでは? 気にしても仕方ないのでしょう。

 しかし、「それはどうかな?」とおじいは言いました。