米軍の撤退という考え方は国民の不安を誘う。米国がそれを逆手に取るんじゃないか。そういった考えに基づいていたのです。だから徹頭徹尾、自民党政権は国民に一番大切な真実を語ることなく、指摘しやすい北朝鮮の脅威のみを発信し続けました。だから、日本政府はタカ派だという勘違いをされる羽目になった。

 北朝鮮の脅威をめぐる“演出”は、中国や米国に関する本音を国民に言えないことによるひずみとして生じたというのが私の分析です。

 1950年代のアメリカで作られた映像で「Duck and Cover」というのがあるんです。アニメの動物キャラクターが歌いながら、「もしソ連の核爆弾が落ちたら机の下に潜ろう」みたいなことを子どもたちに啓蒙する動画です。本当に核攻撃を受けたらそんな動作は何の意味もないのに、国民の安心を担保するためにそんな動画を見せていた。危険が避けられないことは分かっているけれど、そうすると国民が不安に陥るから、国民に対してそういう気休めみたいなことを言うわけですよ。

 今の日本と同じ構図ですよね。農家のおばあちゃんに「Jアラートが鳴ったら、田んぼの真ん中でかがめ」なんて…。これは安倍政権の個性というより、悲劇的な国際政治構造にとらわれた政府が、典型的に取る行動だと思うんですよね。

1月末から3月にかけては
実際に戦争リスクが高まった

初沢 昨年の北朝鮮の危機については、テレビなどでも戦争の確率が何%かなどと、随分あおってましたよね。40%だとか60%だとか数字が飛び交っていた。

『隣人、それから。38度線の北』の写真
『隣人、それから。38度線の北』より

 僕自身は、戦争の確率はあって1%かなと思っていました。93~94年の第1次核危機に米国防総省が出した在韓米軍、韓国軍、民間人の被害の試算からも、北朝鮮への攻撃があり得ないことは既定路線です。朝鮮半島全体が民主化されることを中国が黙って見ていることはあり得ない。米中戦争に発展する可能性も排除できません。それでも、あたかも戦争が起きるような機運が高まったのは、ひとえにトランプ大統領の発言の不確実性によるもので、あんな変人だったらやっちゃうんじゃないか…みたいな感じで盛り上がってしまった。