植村氏の義母・梁順任さんは韓国の太平洋戦争犠牲者遺族会の役員をしていた。遺族会は金学順さんが日本政府を訴える賠償請求訴訟を支援したが、植村氏が最初に取材した当時は、金氏との接点はなく、訴訟の動きなどはなかった。

 植村氏が大阪社会部の記者として朝鮮問題に熱心であることを知っていた当時のソウル支局長が、金氏の証言テープがあることを伝え、取材させたと証言している。

 産経に集う右派論壇は、慰安婦問題を「歴史戦」と位置付け、戦後の歴史観の修正に力を注いできた。

 朝日新聞が、「済州島で慰安婦狩りがあった」という吉田清治氏の証言をもとにした82年9月の記事を「事実ではなかった」と取り消したことをきっかけに、「従軍慰安婦などなかった」という歴史修正の動きが力を増した。

 従軍慰安婦は儲かる仕事で、動機はカネだ。「強制連行」だとあおったのは朝日新聞で、歴史をねじ曲げた情報を世界に発信し、日本と日本人を卑しめた――。そんな言説が噴出した。標的が植村記者だった。

 金学順氏は、慰安婦とした初めて名乗り出て、顔をさらし悲劇を語った。生き証人の登場は「歴史修正」を目指す人たちにとって不都合だったのかもしれない。

 金氏は親に売られただけ。キーセンから慰安婦にされたのは養父のカネ儲けのためだ。挺身隊と慰安婦は関係ない。

 訴状に40円で売られたとあるのに、植村氏は記事で触れず、書かれてもいない「女子挺身隊として戦場に連行された」などと加筆した、と集中砲火を受けた。

右翼論壇の「やり過ぎ」
世論のバランス感覚が働く

 それだけではない。「週刊文春」は植村氏が朝日を退職して神戸松蔭女子学院大の教授になる、という情報を察知し「“慰安婦捏造”朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に」という記事を掲載(2014年2月6日号)。この中で西岡氏は植村氏の記事を「捏造記事と言っても過言ではありません」と述べている。

 記事の掲載に際して「週刊文春」は神戸松蔭女子学院大にこんな質問状を送った。

「重大な誤り、あるいは意図的な捏造があり、日本の国際イメージを大きく損なったとの指摘が重ねて提起されています。貴大学は採用にあたってこのような事情を考慮されたのでしょうか」

 この記事が出ると、大学に電話やメールが殺到した。植村氏は事実上の就任辞退を迫られたという。

 記事を書いた元文春記者の竹中明洋氏は東京地裁の証人尋問で「思った以上に反響が大きかった」と述べた。