1985年、当時の厚生省が提唱した食生活指針に「1日30品目」というものがある。
ようは多品目をバランスよく食べましょう、ということなのだが、実は、この「30」という数字にはこれといった根拠はない。
結局、15年後の2000年には、指針から1日30品目という言葉が消え、「主食、主菜、副菜」を基本にバランスの良い食事を、という目標に変わった。
さらに今年8月、米国心臓協会(AHA)が、「多品目を食べることが、適正体重の維持につながるという“エビデンス”はない」という声明を出した。
声明の作成にあたり、米テキサス大学公衆衛生大学院疫学・ヒト遺伝学・環境科学のOtto氏らは、2000年1月~17年12月に発表された食生活と体重に関する調査研究を解析。
その結果、多品目を食べることが適正体重の維持や健康的な食生活につながるとする根拠はないことが示された。さらに、多品目にこだわった食生活は、摂取カロリーが増加するばかりか、食事がパターン化して体重が増える可能性が示唆されたのである。
声明では食品数をむやみに増やすのではなく、果物類、野菜類、豆類、全粒穀物、低脂肪の乳製品や植物油、鶏肉を適量食べ、赤身肉や菓子類、甘い飲み物を控えめにするよう推奨。「品目数よりも健康的な食品を食べ続けることが大切だ」としている。
米疾病対策センターの報告によると、米国では成人の実に4割(39.6%)が体格指数30以上の肥満体形だ。肥満が引き起こす2型糖尿病、心疾患などの治療に費やされる医療費は年間2000億ドルに達する。AHAが多品目神話にメスを入れたのも、肥満大国=米国の将来に危機感を覚えたからだろう。
われわれも「1日30品目」にこだわる必要はない。もっとシンプルに、日本食品標準成分表の大分類──穀類、豆類、魚介類、野菜類などの14カテゴリー(菓子類、調理加工食品類などを除く)から1品ずつ選び、1日1回は食べるようにしよう。それだけで十分に五大栄養素をカバーできる。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)