核戦争の危機が極大になったキューバ侵攻の頃、ケネディーは一日に何度も注射しなければ元気を保てなかった。その薬剤がいったい何だったかはわかっていない。もし暗殺されなかったら、ケネディーのこのような状況は生前に暴露されていたのだろうか。ちなみにジェイコブソンに関するFBI資料は未公開で、入手できるのは13ページのうち4ページだけだという。

パラノイア(妄想症)だった
スターリン、毛沢東

 迫害妄想にとらわれていて、親戚であろうが容赦なく粛正するような独裁者、ヨシフ・スターリンを診察するのは命がけだ。スターリンをパラノイア(妄想症)と診断した精神科医はその診断後24時間で怪死しているし、前任の主治医も逮捕されている。これらのことを知っていた主治医、ウラジーミル・ヴィノグラードフが慎重であったのは当然である。

 しかし、動脈硬化が重症になってきたために節制が必要であるとの注意勧告をおこなわざるをえなくなる。おそらくそれが、医者嫌いであったスターリンの怒りを招いたのだろう。でっちあげられた罪により投獄され拷問をうける。それぐらいで済んでよかった、殺されなくてよかったとほっとするくらいにスターリンは冷酷であった。

 毛沢東はもっとすごい。清潔観念に乏しくシャワーも浴びず風呂にも入らず悪臭をふりまいていた。性病に罹っていたにもかかわらず、国中から集めた若い女性達と性行為をおこないまくった。さらには、スターリンと同じくパラノイアであった。信じられないような話だが、これらのことは、主治医であった李志綏(り・しすい)によって、毛の死後に詳しく書き記されている。

 この本に書かれているのは、主治医によってその病気や性癖が暴露されれば一気に失脚し、世界を混乱に陥れかねないような権力者ばかりである。我々が思っている以上に、世界というのは、権力者の病気という危ういガケの上に心許なく立っているようだ。

ケネディーはクスリ漬け、スターリンは妄想症、毛沢東は…

(HONZ 仲野 徹)