これらの国々の腰痛治療の良い点をざっくりとまとめると、次のようになる。

◎保険が出来高払いではなく、定額払い制度である

 余分な治療をして支出が増えると、逆に医療機関の収入が減ってしまう(ゆえに、余分な治療はしない)。

◎手術適応を決める際に、現在の症状・所見だけでなく、心理社会的要因も考慮に入れて行う

 日本のある病院の脊椎外科では、カンファレンス(治療方針等の話し合い)の際に、各患者の名前(姓のみ)と画像だけを見て、手術が必要かどうかを決定している。年齢、社会的状態(手術後誰がどこで面倒を見るのか、など)、困っている症状、心理的な状態などは一切討議しない。これは極端な例ではあるが、日本の病院ではまれなことではない。

 一方、痛み治療の先進諸国では長期的な見地から、手術を行った場合、行わなかった場合、患者の生活にそれぞれどのようなメリット・デメリットがあるかを様々な角度から検討する(多くの場合、脊椎外科医だけでなく、MSW〈医療ソーシャルワーカー〉、PT/OT〈理学療法士/作業療法士〉、臨床心理士などが参加し、対等の立場で議論する)。

◎家庭医制度がしっかりしており、ゲートキーパーの役を果たしている

 国民皆保険制度が整っているのにもかかわらず、家庭医制度が確立していない国は、日本くらいしかない。

 痛み治療の先進諸国では、手術を行う専門医に患者を紹介するのは家庭医であり、手術ができるか、あるいは手術の『有用性』(その手術をして患者さんのQOL/ADLが改善するのか)を、専門医と連絡を取りながら患者・家族とともに決めるのも家庭医だ。彼(女)らは慢性痛についてある程度教育を受けているので、非特異的腰痛症(※注1)などの元々手術適応が低い患者は紹介しない(手に余る慢性痛患者は痛みの専門医に紹介する)。

 また、脊椎専門医も、成功の可能性が低い手術を無理やり行ってうまくいかなかった場合、紹介してきた家庭医の信頼をなくし、紹介患者が減ってしまうので、十分に検討する。