7月5日、衆議院で可決した水道法改正案。この先、水道事業も民営化を進めていくという政府の方針に、ネット上では「国民の命に関わる水を民間に委ねるなんて馬鹿げている」との声も目立つが、実際はどうなのか。グローバルウォータ・ジャパン代表で国連環境テクニカルアドバイザーの吉村和就氏に聞いた。(清談社 福田晃広)

モノ、ヒト、カネなしの三重苦に
あえぐ日本の水道事業

安易な水道民営化は、深刻な副作用をもたらします世界では民営化を進めた結果、水道料金が跳ね上がったり、水質やサービス低下によって死者が出るなど、深刻な副作用が出ている Photo:PIXTA

 今回の水道法改正案は、多くのメディアで“水道民営化法”と紹介されているが、それは「コンセッション方式」を導入しやすくすることが盛り込まれているためで、法案には民営化という言葉は一切使われていない。

 コンセッション方式とは「地方公共団体が経営する原則を維持しつつも、民間企業に運営権を売却できる仕組み」のこと。つまり公設民営であって、水道の所有権は現状と変わらず官側にあるものの、実際の水道事業(浄水場の維持管理、水質検査、料金徴収など)に関して民間会社に任せるのだ。

 しかし、なぜこのタイミングで水道法改正が急ピッチで進められたのか。その背景について、吉村氏は以下のように説明する。

「以前にも一度審議未了で流れた水道法の改正案ですが、6月18日に発生した大阪北部地震で、設置してから50年以上もたっている老朽化した水道管が破裂し、約26万人以上が断水被害を受けたことにより、一気に審議入りし、衆議院を通過したのです」(吉村氏、以下同)

 さらに吉村氏は、「『水道施設の老朽化対策』が改善されないのは、『水道料金収入の減少』、『事業を担う人材不足』によるものだ」という。

「今般の水道法改正案の趣旨にもつながりますが、すでに寿命を迎えている水道管や浄水場を改築・更新することすらままならない状態にあるのは、水道事業経営による料金収入が人口とともに減り続けていて、過去10年間で2000億円も減収しているからです。定年退職の増加もあって、経験とノウハウを持った水道職員数も減少傾向で、30年前と比べると3割減で現在5万人を切っています。官側の人材不足と、技術が引き継がれていないため、民間の力を借りて、官民連携にすべきという声がここにきて上がったのです」