100業種・5000件以上のクレームを解決し、NHK「ニュースウオッチ9」、日本テレビ系「news every.」などでも引っ張りだこの株式会社エンゴシステム代表取締役の援川聡氏。近年増え続けるモンスタークレーマーの「終わりなき要求」を断ち切る技術を余すところなく公開した新刊『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』に需要が殺到し、発売即、続々と異例の大重版が決まっている。
本記事では、手慣れたクレーマーの巧みな手口に対抗するためのコミュニケーションテクニックを、事例とともに特別掲載する。(構成:今野良介)

「ちょっと待て」に気をつけよ

本記事では、拙著『クレーム対応「完全撃退」マニュアル』の中から、クレーム対応の全ての方策を講じても解決しない、言わば「最終手段」をご紹介します。

まず、一連の流れを、かんたんにおさらいしておきます。実は、理不尽な要求を繰り返す「モンスタークレーマー」を撃退する方法は、極めてシンプルです。

過剰な要求に対しては「ギブアップ」して(相手の言いなりになるという意味ではなく、「相手の土俵に上がらないこと」です)、不当要求はきっぱり断ればいい。この一本道をまっすぐに進めば、確実に終わりがきます。そして、最後のステージが「放置」です。組織として打つべき手をすべて打ったら、あとはクレームが収束するまでアクションを起こさず、相手が諦めて引き下がるのを待てばいいのです。

しかし、こちらが「放置」で対処しようとしても、すんなりとはいかないケースもあります。本記事では、そんなときの対処法を、いくつかお伝えします。

百戦錬磨のクレーマーは、反社会的勢力のプロクレーマーに負けず劣らずの手段を取ることがあります。いきなり大声を上げたり、テーブルを叩いたりして相手をパニックに陥れ、自分のシナリオ通りにコトを運ぼうとするのです。相手が冷静さを失えば、たとえ5%の正当性でも、100%にも、200%にもできるという経験があるのです。

そこで、老獪なクレーマーの必殺技を紹介しておきましょう。あらかじめ彼らの手口を知っておけば、ダメージを最小限に食い止めることができます。

百戦錬磨クレーマーの「手口」を知っておこう

まず、気をつけるべきは「ちょっと待て」というフレーズです。これは、じつは暴言よりも警戒したい言葉です。

たとえば、領収書の宛名が間違っていたり、案内する順番が後先になったりするなど、小さなミスが発覚すると、悪質クレーマーは怒鳴り声を上げる前に「ちょっと待って」と、小声で、しかし少しきつい口調で言い放ちます

じつは、このひと言が、その後の「怒声」の威力を倍増させます。狙いを定めた相手が日常業務をこなしているとき、いきなり大きな声を上げても、その迫力が十分伝わらないことがあります。そこで「ちょっと待て!」という呼びかけで相手に注目させ、怒鳴り声のダメージをより大きくしようという狙いがあるのです。必殺の右ストレートの前に繰り出す、左ジャブのようなものです。

ここで注意してほしいのは、「ちょっと」という呼びかけが、特定の誰かに向けられたものではないことです。「ちょっと」のひと声に、まわりにいる人すべてが反応し、自分に対して呼びかけられたのではないかと錯覚します。

そして「えっ、何か?」と声の主を探し始めたタイミングに合わせて、クレーマーは怒鳴り声を発します。つまり、周囲を巻き込むことで、パニックを拡散させようとするのです。

もちろん、標的になった人も「ちょっと待て!」の声に振り向いたり、顔を上げたりするでしょう。そして、「何を言われるのだろうか?」と、次の言葉を待ち構えていると、そこに突然の怒声が響きます。その瞬間、「早く逃げ出したい」という恐怖心とともに、「これ以上こじれると、皆に迷惑がかかる」という焦りが生まれます。

ここで業務知識や接遇テクニックを総動員して、「説得」しようとしてはいけません。クレーマーはこちらの言葉尻をとらえて、難癖をつけてくるからです。

クレーマーはその気になれば、どんなことにもイチャモンをつけることができます。こちらが目を伏せていれば、「目を見て話せ!」と凄み、相手の目を見て話せば、「その目は何だ!」と威圧します。

こうしたときの対応法は、まず「ワナを仕掛けてきたな」と意識して、覚悟を決めることです。そのうえで、「相棒」と一緒に冷静に対応すればよいのです。

沈黙には沈黙で切り返す

老獪なクレーマーは、怒声だけでなく「沈黙」も巧みにあやつります。

担当者に「どう責任をとってくれるんだ!」と、鋭い口調で威嚇し、こちらが「そのようにおっしゃられても、私ひとりでは判断できません」とギブアップトークで切り返しても、「だから、どうするつもりなんだ!」と手を緩めません。

問題はここからです。クレーマーは一瞬、口をつぐみます。これは、相手を不安に陥れるためです。もし電話だったら、この沈黙はいっそう不気味に感じさせる効果があります。

そして、約5秒間の沈黙の後、ドスのきいた声でこう責め立てます。

「結論はどうなんだ! はっきりしろ!」

なんとか踏ん張っていた担当者も、ここで完全に浮き足立ってしまうのです。

では、どうすればいいのか。

1つの事例を紹介します。