100業種・5000件以上のクレームを解決し、NHK「ニュースウオッチ9」、日本テレビ系「news every.」などでも引っ張りだこの株式会社エンゴシステム代表取締役の援川聡氏。近年増え続けるモンスタークレーマーの「終わりなき要求」を断ち切る技術を余すところなく公開した新刊『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』に需要が殺到し、発売即、異例の大重版が続いている。
本記事では、クレーム対応担当者が必ずおさえておきたい最低限の法律知識を、事例とともに特別掲載する。(構成:今野良介)
無理な要求をやわらかく突き返す「断りの3段話法」
クレーマーが怒りにまかせて罵詈雑言を繰り返すだけなら、先日の記事で紹介した「ギブアップトーク」で沈静化することがほとんどです。
しかし、それでもなお、無理難題を突きつけてくるクレーマーもいます。このレベルになると、確信犯的で、社会通念から完全に逸脱したブラックゾーンに近いクレームも増えてきます。
たとえば、「誠意を見せろ!」という脅し文句の背後には、金品や特別待遇の要求が見え隠れしています。「慰謝料を支払え!」「迷惑料を払え」という言い方になる場合もあります。また、「土下座しろ」「クビにしろ」などと無茶苦茶なことを言い出すクレーマーもいます。
そんな時は、次の3つのステップで、クレーマーの要求を押し戻すのです。
ステップ(1)「すみません」
→丁寧な口調で拒否の意思を伝えます。
ステップ(2)「恐れ入りますが、……できません(できかねます)」
→クッション言葉を添えて、はっきり断ります。
ステップ(3)「無理です(できません)」
→断定的に拒否します。
1つ、事例を紹介します。
-------メーカーとスーパーが連携した事例--------
大手スーパーで販売されていたベビーフードがもとで、乳児がアレルギー症状を起こし、救急搬送されるという事故が起きた。
ベビーフードを購入した母親は、製品の成分表示に不備があるとしてメーカーの責任を追及するとともに、陳列方法にも問題があったとして、スーパーに対してもクレームをつけた。
「ベビーフードを食べてから30分ぐらいしたら、全身が腫れ上がって呼吸も困難になった。いま入院中だけど、これまでにかかった治療費を払ってほしい」
事実確認をすると、たしかに乳児は急激なアレルギー反応を起こしていた。しかしその一方で、母親が製品表示をよく確かめてから買ったわけではなかった。
製品の裏面にはきちんと成分が表示されており、念のために「乳幼児向け商品ではない」ことも記載されていた。食品衛生法上、何も問題はなかったのである。
また、スーパーの陳列についても、消費者を混乱させるようなPOP広告などは見当たらず、問題なしと結論づけられた。そこで、メーカーとスーパーは共同で対応方針をまとめ、母親と面談した。
ところが、母親は、会社側の説明には一切、耳を傾けない。
「こんな書き方をしていたら、誰だって間違うでしょ。それに、この商品が置いてあったのは、ベビーフードのすぐ近くだった」の一点張りである。
会社側は、お見舞いを兼ねた訪問を重ねたが、かえって母親の態度は硬化していった。
「誠意を見せてちょうだい! 慰謝料もほしいわ」
これを受けて、会社側はこう告げざるをえなかった。
「製品表示や販売方法について瑕疵がなく、誠に恐縮ですが、費用の負担はいたしかねます」
その後も母親は費用負担を要求したが、そのつど「お気の毒ですが、総合的な判断によって、ご要望にはお応えできないという結論に至りました」と答えた。
(了)
思い入れが強いクレーマーほど、「どうしてできないんだ?」と詰め寄ってくることが多いものです。
そうした場合、私は「総合的判断によって」「社会通念上」といった言葉を使いながら断りの意志を示すことがあります。一般に、こうした言葉は「上から目線」をお客様に感じさせるため禁句だとされますが、クレーマーの悪意がはっきり見えてきたら、もうその時点で「お客様扱い」をする必要はないのです。
裁判を見越した「警告の6ステップ」
また、しつこいクレーマーを退けるには、段階的に「警告」をしなければならないこともあります。
たとえば、クレーマーが交渉のために会社にやってきて、同じことを何度も繰り返して、何時間も粘って帰ろうとしなかったとしましょう。もし相手に帰る気配がなくても、「交渉」を前提にしている以上、強制的に退去させることは困難です。
その場合は、「これ以上、お話しすることはありません。業務に支障が出ますので、お引き取りください」と告げます。つまり、長時間束縛されていることについて、「迷惑しているので帰ってください」と明確に伝える必要があるのです。
それでも、まだ相手が居座るようなら、こう言ってプレッシャーをかけます。
「お帰りにならないのであれば、警察に通報します」
万一、それでも居座り続けたら、実際に110番通報します。こうした、少々面倒な手順を踏む必要がある理由は、クレームが裁判にまで発展したとき、
「なぜ、はじめに注意するなり、管理措置をとらなかったのか?」
「放置することで悪質性を際立たせ、犯罪者に仕立て上げているのではないか?」
と問い詰められないようにするためでもあります。
弁護士は「帰れ3回、不退去罪」という言い回しをします。これは「帰ってくれ」と明確に3回告げているにもかかわらず、相手が居座り続けた場合に「不退去」の要件を満たす、ということを示しています。
クレームの現場においては、次の6つのステップを踏めば間違いはありません。
(1)「これ以上は対応できません」→ (2)「業務の支障になります」
→(3)「お引き取りください」→(4)「業務妨害罪になります」
→(5)「警察に通報します」→ (6)「警察に通報しました」
訪問先で何時間も缶詰め状態にされた場合も、「すぐに結論は出せませんので、今日は帰してほしい」と、勇気を持って伝えなければなりません。もし、相手が強引に引き止めたり、拘束したりすれば、これは違法行為(強要罪)とみなされます。
行き過ぎた謝罪は自分の身を滅ぼす
「土下座しろ」「クビにしろ」も、明らかに行き過ぎた要求です。クレーマーは相手に非を認めさせ、怒りをぶちまけて溜飲を下げようとしているわけですが、土下座や解雇の強要は違法行為(強要罪)です。仮にこちらに落ち度があったとしても、担当者が土下座したり、従業員を解雇したりする義務はありません。
そもそも、土下座を「誠実な態度」と考えるのは間違いです。かつて、不祥事を起こした企業のトップが、謝罪会見の場で土下座したことが話題になりましたが、この光景を見て、企業の姿勢を評価する声はほとんど聞かれませんでした。土下座したからといって、誠実さが伝わる時代ではありません。
クレーム対応で役立つ法律知識
ここで、クレーム対応の担当者が最低限おさえておくべき法律知識を下記にまとめましたので、ぜひ頭に入れて、組織内で共有しておくことをおすすめします。
また、従業員の接遇態度にクレームがつけられたからといって、その従業員の仕事や身分を奪うことは許されません。
従業員の接客態度に対するクレームなら、「従業員の教育を徹底するとともに、その者の処分は当社の規定に則って行います」と伝えます。
土下座や解雇の要求に対しては、「人権上の観点から、そのようなことはできません」と、人としての尊厳や基本的人権を脅かす行為であることを示唆します。
また、「おうむ返し」を併用すると、いっそう効果的です。「お客様は土下座しろ(クビにしろ)と、おっしゃるのですね。それは強要罪に当たりますので、私どもとしても看過できません」
こう、きっぱり言い切るのです。
『クレーム対応「完全撃退」マニュアル』では、このようなクレーム事例をふんだんに紹介しながら、対面・メール・電話あらゆる場面における正しい対応法、ネット炎上を鎮火させる方法、高齢化に伴い増加している「シルバーモンスター」の実態と対策など、クレーマーの“終わりなき要求”を断ち切る23の技術を余すところなく紹介しています。
ぜひ、現場で使い倒していただき、万全の危機管理体制を整えた上で「顧客満足」を追求してください。
最後に、1つ申し添えます。法的な手段に訴えるのは、クレーム対応の最終手段です。その前にできることとして有効な対応法については、下記の記事をご参考になさってください。
(参考記事)
「半殺しだよ」→「怖いです」
「SNSで拡散するぞ」→「困りましたね」
究極のクレーム対応“K言葉”の活用術