第14作は、恒例の音楽とタイトルが出た後、寅さんの妹、諏訪さくら(倍賞千恵子)が血相を変えて自転車をこいでいる場面から始まります。

 普段のさくらと比べると明らかに異様です。さくらは真っ青な表情で江戸川の防波堤や、「柴又帝釈天」の商店街を自転車で走り抜け、実家の団子屋「とらや」に到着します。

 さくらが珍しく焦っていたのは、夫の諏訪博(前田吟)がケガをしたという情報に接したためです。そして、とらやに到着すると、叔父の車竜造(下條正巳)、叔母のつね(三崎千恵子)はともに右往左往しています。裏の印刷工場に勤める博が機械に腕を巻き込まれ、指や腕を失っているかもしれないと話し合っているのです。

 そこで、真っ青になったさくらが病院に駆けつけると、博は包帯で右腕をつっているものの、大したケガではありませんでした。工場を経営するタコ社長(太宰久雄)も病院に来ており、一同胸をなで下ろします。

 その後、場面は変わり、家族全員で晩御飯を食べているシーンになります。

竜造  「いくら真面目に働いてきたって、こんなことで片手でもなくなった日には誰も補償してくれねぇんだからなあ。大変だよな、博さんも」
さくら 「おいちゃん(注:竜造のこと)たちだってそうよ。今まで丈夫で過ごしてきたからいいようなもんだけど、どっちか病気にでもなってごらんなさい」
つね  「そうだよねえ。いつかは体だって利かなくなるんだからねえ」
竜造  「何を。そうなりゃ首くくって死んじまうよ」
つね  「まあ」
さくら 「やぁねもう」

「首をくくるしかない」という言葉は冗談にしても、このセリフとシーンでは、予想できない労働災害に見舞われたとき、特に稼ぎ手の「大黒柱」を失うと、生活が不安定になるリスクが描写されています。竜造とつねは零細店舗の自営業者なので、勤め人を対象とした制度の恩恵を受けられませんが、博が負った事故やリスクを事前に防ぐことが労働衛生の目的の1つになります。

 しかも、この場合の責任を従業員に求めることは、難しいと言わざるを得ません。会社の指示で働いている従業員が、自らの裁量だけで職場環境の改善や安全対策を進めるのは難しいためです。