労災認定された5人のうちの3人が裁量労働の社員だった三菱電機が、長時間労働を是正するために、裁量労働制を全廃した。しかし、裁量労働制を全廃すれば過労死がなくなるとは、私には思えない。(モチベーションファクター代表取締役 山口 博)
裁量労働制は長時間労働の
元凶なのだろうか?
三菱電機で裁量労働制が適用されていた社員のうち、1人が過労自殺し、2人が脳疾患を発症し、労災認定された件を受けて同社は、再発防止のために、「厳格に労働時間を把握するため」という理由で、裁量労働制を全廃した。裁量労働制の拡大を含む働き方改革関連法案が、2019年4月から順次施行されるにもかかわらず、真逆の動きだ。
しかし、裁量労働制を全廃すれば長時間労働は是正され、過労死はなくなるのだろうか。私にはそうは思えない。
裁量労働制の適用者は、実際の労働時間ではなく、労使であらかじめ決めた「みなし労働時間」により給与が計算される。時間労働制の社員に支払われる22時以前、5時以降の「普通残業手当」は支払われない。例えば、みなし労働時間が10時間だった場合、朝9時から21時まで休憩1時間を除く11時間働いたとしても労働時間は10時間とみなす。逆に、実働が9時間であっても、やはり労働時間を10時間とみなす。
大事な点は、時間労働制の社員はもちろん、裁量労働制の社員に対しても、実際の勤務時間管理と健康維持のための取り組みが、会社と社員に義務付けられていることだ。裁量労働になると勤務時間管理と健康維持のための取り組みができなくなっているとすれば、制度の目的をはき違えているように思えてならない。
実際の勤務時間管理の目的を、単に普通残業手当の計算のためだけというように考えている人事部は少なくない。そうしたケースでは、普通残業手当の支払いが不要な裁量労働制の社員について、勤務時間管理も不要であると考えてしまう。
裁量労働制の社員に対して普通残業手当は支払い不要だが、22時以降、5時以前の深夜残業手当の支払いは必要だ。深夜残業手当は発生件数が限定的であるという理由などで、都度、申請し計算する方式を取り入れている人事部は多い。都度の申請で深夜残業手当が計算できてしまうので、事務面からは、勤務時間管理の必要性が実感されないのだ。このことは、人事部が依然、管理事務に傾斜したままで、社員の健康維持という問題に正面から取り組めていない証左であると、私は感じている。
そのような人事部は、給与計算のための勤務時間管理はしているかもしれないが、社員の健康維持のための取り組みが十分できていない可能性がある。だとすれば、裁量労働制を全廃して、時間労働制に戻したとしても、長時間労働が是正されて、過労死がなくなるとは思えない。