起業家になろうとは、もともと思っていませんでした。確かに、僕の周りには、起業家である兄(孫正義)や父がいました。ですが、血のにじむような努力をしてまで働く兄や父の姿を見ていると、「僕には向いていないな。自分にはまねできない」とさえ思っていたのです。
当時から、「会社を繁栄させて人類に貢献する」というような壮大なミッションを掲げている会社はたくさんありましたが、僕にはやはり抽象的過ぎて、共感できなかった。兄や父の言っていた「志が大事」という話も同じでした。
それが大きく変わったのは、米ヤフー創業者のジェリー・ヤンさんとの出会いがあったからです。
初めて会ったときのジェリーは、リュックを背負ってよれよれのシャツを着て、眼鏡を掛けたお兄ちゃん。それこそ秋葉原にいそうな“オタク”の雰囲気が漂っていました。
だが、そんなジェリーは「未来のニュートンの前にリンゴを落とすんだ」と言いました。「未来のニュートンの前にリンゴを落として、人類のイノベーションを加速させてみせる」と言い切ったのです。
衝撃的でした。その夜は興奮して寝られないという、人生で初めての経験をしました。
当時のヤフーといえば、まだ小さな会社で、日本や韓国、フランスなどを回り、各国で事業を立ち上げていく段階で、それを「ヤフーワールドツアー」と呼んでいました。
驚いたのは、彼らが世界を回ると、世界の若者が熱狂し、それがムーブメントになっていくことでした。まるで、ロックバンドのスターのようでした。「世界は変わる」と、僕もそう思えたのです。