メルカリのサービス開始は同年の7月。当時すでにダウンロード数は100万件を突破したが、フリマアプリの競争は激化していた。年末には、「LINEモール」や「ミクシィマイ取引」が参入。メルカリももともとファッション系フリマ「フリル」より出遅れて参入しており、後発組だった。
フリマアプリは勝者独占。どこか1社しか生き残れない厳しい世界で共存はあり得ない。
山田は勝負どころと判断した。メルカリのテレビCMを打つことにしたのだ。
通常、ネットサービスは情報感度の高い層が使い始めて徐々に口コミで一般層に広がっていく過程を取るが、最新のスマホやネット事情に詳しくない層にまで普及させるには、やはりテレビCMが効く。
メルカリも、それまでオンライン広告は展開してきた。しかし、全国区でテレビCMをやるとなれば数億円の世界で、桁が違う。
何より当時のメルカリは、現在10%取っているユーザーの手数料を無料としていた時期で、投入する自己資金などなかった。
13年の創業時には、山田と旧知の関係にあったVC2社から計3億5000万円を調達したが、オンライン広告費用や、社員や契約エンジニアの給料で消えてしまう。テレビCMで勝負に出るなら追加の資金を調達するしかない。
10億円を超える金額を調達するのは簡単ではないが、攻めのタイミングを逃せば、多くの競合に攻められる。
山田には、メルカリの前にウノウという名のベンチャーを立ち上げて、米ゲーム大手のジンガに数十億円で売却した経緯がある。山田の元には数億円の利益が残っていたとみられる。冒頭の発言のように、新たな資金調達が無理なら私財をCMの制作費に充てようと考えるほど、山田は今が勝負の時期だと捉えていたのだ。