このように“両刃の剣”の面があり、トランプ政権としては、TAG交渉が難航する局面で、改めて「25%追加関税」を “脅し”として持ち出し、日本に牛肉や豚肉などで、譲歩を迫るという可能性は不定できない。

 一方で、ここにきて新たな要素が加わった。

 10月中旬、ムニューシン米財務長官がインドネシアでの記者会見で、日本との二国間協定に、「為替条項」を盛り込む必要性に言及したことだ。この発言も、米国の貿易赤字は、貿易相手国による不当な通貨安政策によってもたらされていると思い込んでいるトランプ大統領の考えを代弁している面がある。

 実際、USMCAや米韓FTAでも、メキシコペソ安やウォン安誘導を禁じる「為替条項」について、強制力こそないものの付帯協定として結ばれた。

 米国内では、一部の学者から、「プラザ合意」(85年9月)のような為替調整を主張する声も出始めた。

 日本側は「為替誘導などの実態がないことは明らか」と反発する。しかし一方で、円安や株高はアベノミクスの成果と安倍政権は強調してきた。この“矛盾”を米国から突かれる可能性もある。

 こうして日本側の思いとは裏腹に、日米交渉はトランプ氏の「脳内摩擦」にとどまらず、リアルな「80年代型摩擦」の様相を帯びてきた。

日本側に誤算相次ぐ
脱グローバリズムのうねり

 “異質”のトランプ政権誕生以来、日本政府はいくつかの「戦略」を作り、貿易摩擦再燃を避けようとしてきたが、誤算が相次いだ。

 戦略の1つは、グローバル化が進み、モノやマネーの流れが一体化する世界経済の実態を理解する政権内の「グローバリスト」と、自由貿易や同盟関係重視など伝統的な考え方の人たちとの連携だった。

 政権発足後は、「米国第一主義」のバロン大統領首席補佐官らに対峙する形で、経済政策の司令塔である国家経済会議(NEC)のコーン委員長や、石油会社の会長も務めていたティラーソン国務長官らが影響力を持っていたからだ。こうした閣僚に連なる政府高官らと接触、現実的な解決策を探る狙いだった。

 実際、昨年6月、大統領との衝突などからバロン首席補佐官が辞任した際や、今年1月、世界の金融トップや企業経営者らの集まるダボス会議に出席したトランプ大統領が、「TPP復帰」の可能性に言及した際など、日本側が「潮目の変化」を期待した局面もあった。

 TPP復帰を問われ、「現実的な実体のある『取引』であれば」と語ったトランプ発言の草稿は、コーン委員長が書いたと言われている。ところが政権内の保護主義派が猛反発。結局、コーン委員長らは辞任に追い込まれた。政権に残ったのは、日米摩擦時代、USTR次席として日本に輸出規制などを飲ませたライトハイザー通商代表に象徴される、筋金入りの保護主義派だけだった。

 通商問題などを話し合う場として、麻生太郎副総理・財務相とペンス副大統領、ロス商務長官を窓口にした「新経済対話」の枠組みを作ったのも、トランプ大統領が直接、かかわらない形にして現実的な合意を探る狙いだった。