米国留学の帰国直前、銀行口座を解約しようと訪れた結果…?! 資産運用の王道は「長期・積立・分散」ですが、資産運用ロボアドバイザー「ウェルスナビ」CEOの柴山和久さんですら、長年お金の仕事に携わりながらも、多くの失敗をしてきたと言います。そして、その失敗からは多くの個人投資家の方にも通じる問題が見えてきそうです。書籍『元財務官僚が5つの失敗をしてたどり着いた これからの投資の思考法』より、一部をご紹介していきます。
資産運用の王道は「長期・積立・分散」ですが、かくいう私もそこにたどり着くまでに10年かかりました。その間にいろいろな投資を試みては、その度に失敗してきたのです。私が投資して失敗した金融商品は、普通の投資信託や株式などで、何ら詐欺的なものではありません。ごく普通の金融商品であっても、正しく活用しないと結果として失敗してしまうのが資産運用の難しいところです。
ここでは当時の私の心境まで、あえて赤裸々に書き綴っています。私個人の失敗談ではありますが、多くの個人投資家の失敗とオーバーラップする部分があると思います。
第1の失敗:銀行の特別待遇に舞い上がった
私が資産運用を始めたのは、財務省勤務時代に赴いたボストンでの留学から帰国する直前のことです。日本に帰る前、銀行口座を解約するために、大学の正門の向かいにある支店を訪れました。生協のすぐ隣にありATMコーナーには幾度となく通った、なじみのある銀行です。
支店の窓口で、「口座を解約し、残ったお金は日本の銀行に送金したい」と伝えました。すると行員が突然にこやかになり、2階へ案内されました。2年間、一度も足を踏み入れたことのなかった場所です。
2階は落ち着いた空間で、資産運用のコンサルティングブースが並んでいました。投資アドバイザーは親しげな口調で私に、「口座に残っている30万円を資産運用に回してはどうか」と勧めてきます。実のところ、留学していた2年間、こんなに丁寧な扱いを受けたことはありませんでした。
提案されたのは、世界的にも有名な保険グループが運用する投資信託でした。私は、目の前にいる投資アドバイザーも、投資信託を運用している保険グループも、どちらも信頼できそうだと感じました。銀行口座を解約するはずが、言われるがままに資産運用口座を追加で開設し、書類にサインして、提案された投資信託をそのまま買いました。
帰国後、毎月送られてくる報告書に目を通すと、投資信託のリターンはいつもマイナスでした。親切にしてくれた投資アドバイザーに聞きたくても、当時は日本から簡単にアクセスできませんでした。結局、損失を出したまま、数年後に解約することを決めました。
残念ながら、解約の対応は決して丁寧ではありませんでした。国際電話でコールセンターにかけてもつながらず、せっかくつながっても「解約」を口にした途端、体よくたらい回しにされたり別の商品を勧められたりするばかりです。買ったときと同じ銀行とは信じられないような対応に、フラストレーションが募りました。
この一件で、どうしても思い出せないことがひとつだけあります。それは、私が買った投資信託がどのような商品だったのか、ということです。株式中心だったのか、債券中心だったのか、それとも別のものだったのか、ということさえ記憶にありません。そもそも何に投資していたのか、覚えていないのです。
第1の失敗から学んだこと
失敗した最大の理由は、銀行からの特別な扱いに舞い上がってしまい、冷静な判断ができなかったということです。
ボストンでの2年間は正直、心地のよいものではありませんでした。毎日机に向かい、100ページほどのテキストを予習していましたが、会話はそれほど上達しません。大学では皆親切に接してくれるのですが、キャンパスから一歩外に出ると、地元のコミュニティにうまく溶け込めずに疎外感を覚えていました。
カフェで「クロワッサン」を注文したら、「ハアーッ?」と露骨に嫌な顔をされ、指でクロワッサンを指しながら何度も言い直すと、いちいち発音を直されます。こんな日々が2年続きました。留学生活の最後の最後で、大学の外では経験したことがないくらい親切な応対を受け、私は緊張し、舞い上がってしまいました。突如として丁重に扱われる理由を、冷静になって考える余裕がなかったのです。
おそらくあの銀行のあの支店では、「毎年6月に卒業を迎えて口座を解約しに来る多くの留学生たちに投資信託を売る」というビジネスモデルができ上がっていたはずです。私はそれに気づかないまま、ただ「親切なこの人が勧める金融商品ならば、きっとよいものに違いない」と思い込み、投資信託の中身を確認することを怠ってしまったのです。