2009年に松本恭攝さんがラクスルを起業した当時、スタートアップの調達環境は最悪でしたが、自分たちの理念や事業構想に合う投資家を求めて、丁寧に説明を重ね、海外投資家も増やしているとか。日本の働く世代に手頃な資産運用サービスを届けるウェルスナビ代表取締役CEOの柴山和久さんの著書『元財務官僚が5つの失敗をしてたどり着いた これからの投資の思考法』発売を記念した、印刷業界の革命児であるラクスル代表取締役CEOの松本恭攝さんとの対談中編では、松本CEOに、資金調達の方針や投資家とのコミュニケーションで心がけていることを聞いていきます。(撮影:疋田千里)

何のリスクを取って何のリターンを求めているのかを知る大切さ

松本恭攝(まつもと・やすかね)
ラクスル株式会社代表取締役社長CEO
2008年慶應義塾大学商学部卒業、A.T.カーニー株式会社入社、翌年ラクスルを設立し現任。

松本恭攝さん(以下、松本) すでに資産運用をしている日本人を、ネット証券最大手のSBI証券に口座をもつ450万人とざっくり仮定すると、日本国民の5%に当たるというお話でしたが、彼らはリスク選好がものすごく高い人たちですよね。たとえばリスクが1~10と10段階あるとすると、9と10の人しか資産運用をしていないと思うんですよ。目下、8以下の人が投資に向かってない。本来的にはリスク選好度2の人が銀行預金より日本国債は買おうとか、リスク選好度5ならREIT(不動産投資信託)ぐらい買ってみようか、とか考える層がごっそりいない。

柴山和久さん(以下、柴山) リスク選好度5ぐらい取れる人たちは、どういう資産運用の方法があるんだろうと客観的に眺め回すということをしていないんですよね。

松本 そうなんだと思います。イメージで言うと、リスク選好度10の人は東証マザーズ株、9の人は東証一部上場株、8以下の人はほとんどいなくて、1の人がみんな不動産を買う、というような、いびつな状況になっている印象です。
 こういう状況から、みんなが何のリスクを取って何のリターンを求めているのか、フラットにわかるようになって投資が広まるといいですよね。たとえばリスク選好度3や5の人もロボアドバイザーを使うと手軽にリスクのコントロールができる。リスク選好度5~7の人が資産運用を始めると、投資にお金が回るようになっていく効果も期待できます。

柴山 基本的にリスク許容度はみんな違うので、リスクに合った運用方法がわかると、ミスマッチが減って、全体的なお金の流れもよりよくなるのではないかと思っています。
 ところで、日本のスタートアップは今すごく資金を調達しやすい環境にありますが、松本さんが起業した2009年頃は市況もすごく悪かったですよね。どうやって資金を集めたのですか。

松本 2006年にライブドアショック、2008年にリーマンショックというダブルパンチを食らって、ベンチャーキャピタルが本当にいなかったんですよね。アニメ『風の谷のナウシカ』に出てくる巨神兵みたいに、「昔はいた」という感じで(笑)。最初は大学時代の先輩の投資家に300万円出資してもらいました。シリーズAが、その3年後の2012年4月と11月。今みたいな調達環境になかったので、2011年にグロービス・キャピタル・パートナーズがnanapiに3.3億円の投資をした例をみて、自分にもできると動き始め、2012年に合計2.3億円の資金を集めました。
 そのころベンチマークしていたのがMonotaROです。同社が設立2-3年で40億円調達して上場したので、ECで大きな事業をつくるためにリスクマネーが40億円ぐらい必要になるんだな、と思いました。

柴山 2.3億円調達してから、ゴールから逆算するといくら必要、というふうに発想を変えられたんですね。

投資家と沢山合えば、その志向がわかる

松本 そうです。2014年にシリーズBで、まず15億円、そのあと十数社ぐらいから40億円調達しました。当時では、スタートアップで10億円以上のファイナンスをしたのはほぼ日本で初めてだったと思います。30社以上とミーティングして、十数社から調達したのですが、投資家によってリスクとリターンに対する見方が異なるのを見極めながら、今とは環境が違ったので、ミッションや事業計画など説明はより丁寧にしていたと思いますね。

柴山和久(しばやま・かずひさ)
ウェルスナビ代表取締役CEO
次世代の金融インフラを日本に築きたいという思いから、2015年に起業し現職。2016年、世界水準の資産運用を自動化した「ウェルスナビ」をリリースした。2000年より9年間、日英の財務省で、予算、税制、金融、国際交渉に従事。2010年より5年間、マッキンゼーにおいて主に日米の金融プロジェクトに従事し、ウォール街に本拠を置く資産規模10兆円の機関投資家を1年半サポートした。東京大学法学部、ハーバード・ロースクール、INSEAD卒業。ニューヨーク州弁護士。

柴山 投資家とのコミュニケーションという点で、ラクスルは日本のスタートアップの中では物凄くしっかりされている印象です。早期に大きな調達をされたご経験もあるでしょうし、今年5月に東証マザーズに上場されたときも、外国の機関投資家の割合が高まり、むしろそちらがメインとなってますよね。日本の産業の仕組みを変えていくために、外国からもリスクマネーを呼び込んでいる点で、先駆的な存在だと思っています。

松本 我々の作りたい事業の時間軸や山の登り方(成長プロセス)を理解してくれる投資家を探したい、というのはありますね。理解してくれる投資家が、たまたま海外の投資家が多かったということです。1対1の相対だとわからないんですけど、100社、300社…と沢山の投資家に会っていくと、投資家ってどんな人かというのがわかりますよね。上場すると知らない人に株を持たれると言われますが、我々の株主はだいたい顔が見えています。投資家との信頼関係ができると、こういうチャレンジをしたい、3年後にこういう事業をしたい、と議論もできるし、リスクも許容してくれて事業の広がりができていきます。そういう意味でも、自分たちの方向性と合った投資家を見つけて、信頼関係を作ることは大事だと思ってます。これは、未上場の頃からやってきたことですね。

柴山 上場前から投資家とのコミュニケーションの経験を積んでこられたんですね。

松本 どのタイミングで株を買っていただいて、どのタイミングで次の投資家にバトンタッチしていくのか、各社ごとに話してきています。企業価値が100億円のタイミングで入って1000億円までサポートしてくれる投資家がいま何%もっているから、次の1000億円から入って5000億円までの投資家を見つけてこようという話を、しっかりコミュニケーションして我々を理解してもらい、取りたいリスクとリターン、取りたくないリスクとリターンをお互い理解しておくことが重要かなと思います。
 ある投資家は赤字になるとすぐ株を売却する一方、割と多くの投資家が、黒字の業績予想を見てなんでこんなに黒字を出すんだ、(将来の成長のために)もっと投資をしないんだ、と意見を寄せてこられます。投資家によって受け入れられる時間軸やリスクプロファイルは違うので、投資家と自分たちのリスク・リターンがきちんとアラインされていれば、いい関係性ができるし、いい投資がしてもらえるんじゃないかと思いますね。(後編につづく