世界標準の教養として、特に欧米で重要視されているのが「ワイン」である。ビジネスや政治において、ワインは単なる飲み物以上の存在となっているのだ。そこで本連載では、『世界のビジネスエリートが身につける 教養としてのワイン』の著者であり、NYクリスティーズでアジア人初のワインスペシャリストとしても活躍した渡辺順子氏に、「教養としてのワイン」の知識を教えてもらう。
犯人が狙った2つの超高級ワイン
2014年のクリスマスイヴ、アメリカのカリフォルニア州・ナパヴァレーにある三ツ星レストラン「フレンチ・ランドリー」から高級ワイン76本が盗まれる事件が起こりました。被害総額30万ドル(約3000万円)にも達する大きな事件です。
盗難直後、アメリカにいる同僚から連絡が入り、「購入のオファーがあったら受けてはいけない」と、盗難されたワインのリストが送られてきました。盗まれたワインを見ると、そのほとんどがロマネ・コンティ、そしてスクリーミング・イーグルでした。
ロマネ・コンティは世界一高いフランスワインとして有名ですが、犯人が狙ったもう一つのワイン「スクリーミング・イーグル」はワイン通以外にはあまり知られていない存在かもしれません。
スクリーミング・イーグルは、カリフォルニア州でつくられる「カルトワイン」と呼ばれるワインの一種です。カルトワインとは、ナパを中心に産出される超高価で高品質なワインで、人気も価格も、数あるフランスの銘醸シャトーを押しのける“超”高級ワインになります。崇拝、熱狂、儀礼という意味の「カルト」という言葉は、今では宗教的な意味合いが強くなっていますが、カルトワインもまさに熱狂的な信者(ワイン愛好家)に崇拝されるカリスマ的存在のワインなのです。