「株主」は会社という箱を通じて経営陣に経営を委託している立場、いわば経営陣を雇っている立場にあります。雇い主である株主が、「自分たちは経営陣にいくら報酬を支払っているんだっけ?」と知りたいのは本質的なことです。ところが、経営陣は「プライバシーだ」といって、なかなか報酬額を開示しない。「経営陣の総額ならなんとか開示します」となってきたわけです。

 そこで、雇い主である株主側とプライバシーを主張する経営陣側の妥協点として、2010年に「1億円以上なら個別開示しよう」となったのです。その数字を「10億円」としていたところが、実は「20億円」であり、もし偽りを書いていたなら、受託者としてあるまじき騙し行為です。

 また、その会社の株を「買おうかな」と考えている一般投資家にとって、株の価値を推し量る唯一の公的情報は有価証券報告書です。なかでも経営陣がどのくらいの報酬をもらっているのかは重要な情報です。「あの活躍ぶりで10億円なら、納得できるな」と思って株を買うわけです。そこに嘘が書いてあったなら、投資家は騙されて株を買ったことになります。これは、広い意味で、詐欺だと思います。

 金融商品取引法は、有価証券報告書の虚偽記載に対して「10年以下の懲役」という、とても重い刑罰を定めています。株主や一般投資家を騙す罪だと理解していただくと、この刑事罰の重さの意味を分かっていただけると思います。詐欺罪も同じく「10年以下の懲役」と定められていますが、立法者の考え方が推し量られます。

 それにもかかわらず、世の中で「有価証券報告書の虚偽記載」が重大な問題と受け止められないのは、ネーミングの難しさにもあるかもしれません。今回をいい機会として、有価証券報告書のネーミングを工夫して、「株式情報虚偽罪」とか、わかりやすい言葉にしてもいいかもしれません。

 これから高齢化がすすみ、自分の虎の子の財産を株式で運用しようかと考える人もますます増えるでしょう。そうしたときに、嘘だらけの「有価証券報告書」を世の中に公開するのはとんでもないこと。「上場」とは本来神聖なものであり、上場している企業の責任は重いのです。そのことを経営陣には自覚していただきたいと思います。