世界の名だたる資産運用会社の経営者や投資責任者の「成功」は、なぜもたらされたのか? 日・英の財務省とマッキンゼー勤務を経て、資産運用のロボアドバイザー「ウェルスナビ」で起業した柴山和久さんが、フランス郊外にあるビジネススクールINSEADで、さまざまな実務家の話を聞いて知った衝撃の事実とは…? 柴山さんの著書『元財務官僚が5つの失敗をしてたどり着いたこれからの投資の思考法』よりご紹介します。
実は、世の中で称賛されている資産運用の多くについても、実は根拠が薄く、いい加減ともいえます。それを知ったのは、ビジネススクールの講義でした。
資産運用にフォーカスした授業を受けるとき、私は世の中には知られていない、素晴らしい資産運用について学ぶことができるのかと期待していました。しかし、その期待は完全に裏切られました。
資産運用の評価のひとつに、ベンチマークとなる指標(たとえば日経平均)と比べる方法があります。重要なのは、リスクとリターンの両方を比較することです。リターンだけを比較するのは無意味です。
仮にリターンが高いとしても、それが過剰なリスクを取った結果だとしたら、資産運用としてはよくないということになります。仮にリターンがマイナスであったとしても、悪い資産運用だとは限りません。日本株に投資して5%の損失を出していたとしても、同じ期間で日経平均が15%下がっているとしたら、資産運用としては優れていると評価されます。リスクを低く抑えることに成功しているからです。
ビジネススクールでは、資産運用の評価の方法について徹底的にたたき込まれました。その方法は、非常にユニークでした。
業界で大きな成功を収めている資産運用会社の経営者や投資責任者を授業に招き、投資哲学や運用方針について教授が質問します。招かれた人たちは、自分たちの資産運用がなぜ優れているのか、自信に満ちた口調でプレゼンしてくれます。
次の授業では、運用データを分析し、理論的な検証を行いながら、プレゼンで語られたことを客観的に評価していきます。
結果は驚くべきものでした。
リスクとリターンをきちんと精査してみると、「優れている」と手放しで評価できる資産運用は数えるほどしかなかったのです。
たとえば、リターンは高いものの、ベンチマークに劣っているケース。顧客のお金は増えているものの、資産運用会社の貢献度はマイナスです。
パフォーマンスはよいものの、資産運用方針とずれてしまっているケース。たとえば、よりよい銘柄を選ぶという運用方針なのに、実際には金利の変化が追い風になって高いリターンを得られたのであれば、高成績は偶然の産物だったということになります。
名だたる投資家や資産運用会社の功績の多くが、いわば「幸運によってもたらされていた」という事実は、私にとって衝撃的でした。
この結果を、どう考えればよいのでしょうか。資産運用会社の経営者や投資責任者は、本当に気づいていないのでしょうか。あるいは気づいていても、外に向かって言わないだけなのでしょうか。ひとついえるのは、こうした投資家や資産運用会社の顧客は、再現可能な仕組みではなく、ただの幸運に対して手数料を払っているということです。
かつてナポレオンが、旗下の将軍を登用するとき、幸運に恵まれているかどうかを基準にしたという逸話もあり、幸運もときに大切なのでしょう。しかしナポレオンの運命からも明らかなように、幸運はいつまでも続くとは限りません。