資産運用の商品を選ぶ場合、過去のリターンの実績はどの程度アテになるのか…?! 資産運用の王道は「長期・積立・分散」ですが、資産運用ロボアドバイザー「ウェルスナビ」CEOの柴山和久さんですら、長年お金の仕事に携わりながらも、多くの失敗をしてきたと言います。そして、その失敗からは多くの個人投資家の方にも通じる問題が見えてきそうです。書籍『元財務官僚が5つの失敗をしてたどり着いた これからの投資の思考法』より、一部をご紹介していきます。

 資産運用の王道は「長期・積立・分散」ですが、私もそこにたどり着くまでに10年かかりました。その間にいろいろな投資を試みては、その度に失敗してきたのです。前回は、銀行の特別待遇に舞い上がって失敗したときのことを赤裸々にお伝えしました。今回はその後、巻き返しを図ろうとしてふたたび失敗をおかしたときの別の経験をご紹介します。

第2の失敗:過去のリターンの実績を信じ込んだ…

金融のプロも陥る資産運用の失敗その2:「過去のリターンの実績」で選んだ比較して「実績」で選んだところ…?

 留学先のボストンの銀行で、勧められるままに買った投資信託のリターンがずっとマイナスだったので、次は「過去のリターンの実績」を自分で確認して投資信託を選ぼうと思いました。帰国後、証券会社の支店に行き、たくさんのパンフレットをもらってきました。

 さまざまな投資信託の「過去のリターンの実績」を比較し、最終的に2つを選びました。合わせて60万円程度の投資だったのではないかと思います。

 そのうちのひとつは、アメリカの伝統ある資産運用会社が運用する、日本の小型株の投資信託でした。小型株というのは、上場企業の中でも比較的、規模が小さい企業の株です。この投資信託を選んだのは、小型株に興味があったからではなく、「過去のリターンの実績」がもっともよかったからです。

 パンフレットには、世界中の拠点にあるアナリストが独自の企業調査を行い、運用チームが「ボトムアップ・アプローチ(1)」で投資対象を決めると書いてあり、洗練されている印象を受けました。

 結論から言うと、この投資信託への投資も、うまくはいきませんでした。

 当時、好調だった日本の小型株は、上場して間もないIT企業でした。この投資信託は、実質的には「日本のIT企業」を対象に投資するテーマ投信だったのです。過去のリターンが高かったのは、一部のIT企業の株価が高騰していたからでした。

 運用報告書には、投資信託に組み込まれた数百の銘柄のうち、ほんの数銘柄のリターンがとても高いと書いてありました。多少の不安を感じたものの「これまでのリターンの実績はよかったのだから」と言い聞かせ、そのままにしていました。
2006年1月にライブドア事件が起きると、日本のIT企業の株価は軒並み急落しました。リターンの源泉だった数銘柄は、その前の上昇率が高かった分、下落率も抜きんでていました。資産の評価額は大きく減って、損失を抱えたまま売ることになりました。

第2の失敗から学んだこと

 失敗した大きな原因は、「過去のリターンの実績」だけに気を取られ、投資信託の中身やリスクを理解しないままに選んでしまったことです。結果としてテーマ投信を買っていたのですが、私はそのことにすら気づいていませんでした。

 テーマ投信は、投資初心者に人気です。その理由は「表面的なわかりやすさ」と「過去のリターンの高さ」にあります。

「IT」「バイオ」「インド」「中国」「ブラジル」「シェールガス」「クリーンエネルギー」「人工知能(AI)」「インバウンド」「フィンテック」……。テーマ投信は、その時々で盛り上がっているキーワードをテーマに投資先を選んでいます。報道などでもよく取り上げられるキーワードなのでイメージしやすく、わかった気になりやすいのが特徴です。

 最近だとAIがよく話題になるので、AIのテーマ投信も人気です。しかしAIの仕組みや投資先の事業の内容、リスクについて正確に理解して買う人はどれだけいるでしょうか。AIという近未来のイメージに魅せられ、時間をかけて調べることを怠ってしまう場合も多いでしょう。

 しかも、多くのテーマ投信は「過去のリターンの実績」が高いのです。「過去のリターンの実績」がよいと、将来的にも高いリターンが期待できると誤解しがちです。

 ここで、テーマ投信がつくられる仕組みを見てみましょう。

 毎年、数多くの投資テーマが新たに考え出され、それぞれのテーマに沿って、ごく少額の投資信託として生まれます。その時点ではまだ販売されず、たとえば1年後にリターンを計測されます。リターンが低いテーマ投信や、リターンがマイナスのテーマ投信は販売しても売れないため、世に出ることなく消え去っていきます。こうして、「過去のリターンの実績」のよいテーマ投信ばかりが商品化され、販売されることになります。いわば、選抜されてから売られている、というわけです。

 しかし、「過去のリターンの実績」がよいからといって、それが続くとは限りません。むしろ、その逆のケースが多いことが知られています。アメリカでは、2006年から2011年までの5年間でリターンが高い投資信託の上位20%について、その5年後に追跡調査すると、半分近く(46%)のリターンが下位20%まで悪化するか、運用停止になっているという研究結果もあります(2)。

 テーマ投信は、投資テーマがブームを迎えるとたくさん買われて大きく値上がりし、ブームが過ぎると一気に売られて大きく値下がりします。テーマ投資で成功する方法のひとつは、まだブームが到来していないテーマを選ぶことです。

 私の場合、日本のIT企業の株価が上り調子になってから買い、IT企業の株価が軒並み下落してから売ったので、損失が出ました。もっと早い時期に買い、私が買ったような上り調子のタイミングで売っていたら、利益は出ていたはずです。
 とはいえ、ブームの頂点で売るような判断は、投資の初心者にとってはかなり難しいといえます。

 テーマ投信については、2016年4月、金融庁の森信親長官(当時)もこう述べています。

「日本で売れ筋商品となっているテーマ型投信は、売買のタイミングが重要な金融商品といえます。当然、安く買って高く売ることが基本となりますが、継続的に適切な売買のタイミングを見極めることができる投資家は、プロの中にも少ないはずです(3)」

注:
(1) 個別企業に対する調査に基づき、個別銘柄を積み重ねてポートフォリオを組成していく運用手法
(2)Vanguard, “Vanguard’s Principles for Investing Success”, 2017. Vanguard, “Reframing investor choices: Right mindset, wrong market”, 2016においても、モーニングスターのデータを用いた同様の研究が行われており、2005年から2010年までの5年間でリターンが高い投資信託の上位20%について、その5年後、追跡調査すると、その3分の1以上(37%)のリターンが下位20%まで悪化するか、運用停止になっているという結果となっています。
(3)日本証券アナリスト協会 第8回国際セミナー「資産運用ビジネスの新しい動きとそれに向けた戦略」における森金融庁長官基調講演(2017年4月7日) 
https://www.fsa.go.jp/common/conference/danwa/20170407/01.pdf