2018年12月8日号の週刊ダイヤモンド第一特集は「日本人はもうノーベル賞を獲れない」です。20世紀に入ってから、日本は米国に次ぐ数のノーベル賞受賞者を排出しています。しかし、そんな「科学技術立国」日本の足元は、今、驚くほど揺らいでいます。特集では、歴代日本人受賞者10人のインタビューを軸に、日本の科学技術政策の課題を探りました。その中から、1973年ノーベル物理学賞受賞者である江崎玲於奈氏のインタビューを特別公開します。
──日本の基礎研究力の低下に危機感が高まっています。
私が理事長を務める茨城県科学技術振興財団は、理学と生物学系の優れた研究を対象に「つくば賞」を贈呈していますが、29回目の今年は該当受賞者を出せませんでした。茨城県内にはつくば市を中心に、2万人の研究者がおり、全国の公共研究機関の4分の1の研究者がいるといわれています。これだけのバックボーンがありながら受賞者を出せなかったことは残念で仕方がありません。
──研究者を育てるには、どのような環境が必要だと思われますか。
三つあります。まず研究成果に対する厳しい評価体制で、優れた研究か凡庸な研究かを見極められる鑑識眼が要る。
二つ目が、優れた成果を出した者への厚遇です。私はソニーから米IBMの研究所に移りましたが、ソニーも高給だと思っていたけれど、IBMは桁が違っていた。これは研究者のモチベーションを上げます。
三つ目が、優れた研究者集団を戦略的につくる組織構築力。優れた人材をハンティングし、トップ10は絶対に失わず、ボトム10は出す競争マネジメントが必要です。日本では、いずれの条件も整っていません。