ファンは、ほぼレギュラー品を食べる
もうひとつ重要なポイントは、ファンの方たちが好んで召し上がっているのは、実はレギュラー品だということです。「オレはビッグマックしか食べない」「私はフィレオフィッシュが大好き」など、いろんなパターンがありますが、いずれにせよマクドナルドの低迷時でも通い続けてくださったようなファンの方々は、ほぼレギュラー品を好んで召し上がってくださっていました。
ファンの源はレギュラー品だということです。だから、マーケティングで力を入れるべきは、期間限定品だけではなく、レギュラー品だということです。新商品を出せるのは、何しろ調達や準備に長いリードタイムが必要なので、ずいぶん先です。しかし、新しい商品を出すだけがマーケティング戦略ではありません。むしろ、強化すべきはレギュラー品だと私は考えました。
もちろん、レギュラー品の多くはグローバルで共通のレシピなので、商品を変えることはできません。そこで、まずは商品ではなく、コミュニケーションを変えていくことにしました。「モノ」を売るのではなく、「コト」を売る、つまりは話題にして、マクドナルドに行きたくなってもらうのです。
マクドナルドは「Fun Place to Go」な場所だったのです。だから、もっと茶目っ気のある方向にコミュニケーションを変え、話題を作っていく必要があると考えました。そして、話題化の重要なポイントが、第三者(メディアやお客様)に話題にして頂くことでした。
入社後に、いろんなデータも見て、コミュニケーションについて改めて感じたポイントは大きく3つありました。
1つ目は、TVCMに代表されるマス広告の効率が落ちている、ということです。日本マクドナルドはテレビ広告をたくさん打つ、いわゆるマス・マーケティングを得意としてきた会社でしたが、若い人たちはテレビをどんどん見なくなっていましたし、新聞も雑誌も読まない、という人も少なくありません。ほぼすべての情報をスマートフォンから得ています。コミュニケーションの中心となるメディアを、マス以外にも広げなくてはいけない、という課題が明確でした。
2つ目は、一般的に広告自体が信頼されなくなりつつあることに加えて、品質問題によって、マクドナルドの会社としての信頼性が落ちていたことです。なので、会社がいくら広告を出しても、それだけではなかなか聞いてもらえないし、信用してもらえないわけです。ところが、まったく同じメッセージを、信頼する、または共感している他の人から聞くと、圧倒的に信頼感が高まります。
例えば、「チキンタツタがおいしい」ということを、日本マクドナルドが広告で言うだけではなく、「チキンタツタがおいしかった」というレポート記事をウェブメディアで読んだり、お友達が「おいしかった」とツイッターなどの SNSでアップしているのを見たほうが、圧倒的に効果は高いのです。メッセージは同じでも、発信者が違うのです。このコミュニケーションのアプローチを強化する必要があると考えました。
3つ目は、メディアや SNSでマクドナルドについて語ってもらえれば、マクドナルドに関する良いニュースが増えることです。とりわけ、「話題」にすることができれば、一気に拡散していきます。マクドナルドについて検索をしてみたら、こうした良い「話題」が先に出てきて、悪いニュースや記事は見えなくなります。だから、マクドナルドに関する良いニュースをたくさん出して、「話題」を作っていくということを、基本的な方向性に据えたのです。