2015年には347億円という2001年の株式上場以来、過去最大の赤字額を記録した日本マクドナルド。どん底の状況にあったマクドナルドを、マーケティング本部長(当時)として見事に再生させた立役者の一人が、11月21日に発売されたばかりの新刊『マクドナルド、P&G、ヘンケルで学んだ 圧倒的な成果を生み出す「劇薬」の仕事術』の著者、足立光(@hikaruadachi)氏だ。本連載では、P&Gからブーズアレン、ローランド・ベルガー、ヘンケル、ワールドというキャリアで学んできたことを辿る同作のエッセンスを紹介する。第12回は日本企業と外資系の人事評価の違いについて。
「数値目標」を持たない社員がいてはいけない
キャリアのなかでは唯一の日本企業であるワールドにいた頃、私は海外事業本部を率いるポジションにいました。直属の部下は約30人で、一人ひとりと、これから海外事業はどうしたらいいか、話をしていきました。
私は各スタッフとの個別面談で、常にひとつの質問をしていました。私は外資系でキャリアを始めたのですが、常に数値目標がありました。数値で測定できないことは達成できないし、毎日何を目標に仕事をすればいいのかわからない、と考えていました。
したがって、数値目標を持っていない、というのは考えられないことでした。ところが、「あなたの数値目標はなんですか? あなたの評価は、どんな数字で決まっていますか?」という質問には、海外事業本部がいろいろな変化を模索していた移行期だったからかもしれませんが、当時のほとんどのスタッフが、明確な答えを持っていませんでした。
評価するための明確な数字がないということは、要は達成したいことも、責任もない、ということです。達成したいことが明確でなかったら、自発的に次のアクションを考えることもできません。どんな数字でもいいのです。「台湾の原価率を下げる」でも、「韓国の売上を上げる」でも、「海外の平均販管費率を下げる」でも、常にその数値目標を意識して、仕事をしなくてはいけません。
会社の目標があり、海外事業本部の目標があり、それを売上や利益、キャッシュに分解していけば、おのずと自分が責任を持つべき数値は見えるはずです。国ごとに分解してもいいし、国を平均した数字でもいいし、新規店舗の売上でもいいのですが、どこかに数字の責任を持っていないとおかしいはずなのに、自分の目標値をはっきり言えるスタッフが、ほとんどいなかったのです。
実はこれはワールドだけの話ではありません。日本企業では、「あなたの持っている(責任を負っている)数字は何ですか?」と聞いても、答えが返ってこないことは少なくないのです。決して珍しいことではありません。
では、何のために仕事をしているのか問いただすと、「××のお手伝いをしています」と口ごもられてしまったりするわけです。もちろん、ワールドにも人事評価の仕組みがありました。目標があって、毎年それを上長が評価する、という一般的な仕組みです。しかし、当時の海外事業本部では、数値目標が各スタッフまで分解されていませんでした。残念ながら評価制度が形骸化してしまっていたのです。これでは、何が達成できたか、できなかったかが不明確なので、人事評価制度として機能しません。常に数字に落とし込み、数字で成果で測ることができるようにしないと意味がないのです。
日本企業の良いところとして、長期的な経営があります。短期的な業績にとらわれず、長期を見て経営する、ということです。しかし、これは裏返すと、悪いところにすぐに手を打たず放っておいてしまう、という傾向があるのも事実です。