前回の記事「成果主義の落とし穴 お金で動く社員はお金で去っていく」は、連載開始からここまで最も多くの方にお読みいただきました。見出しが刺激的であったばかりではないと思います。そこで書いたことは、私が18年間、中小企業の現場で見てきた本当のことなので、皆さんにも思い当たる節があったのではないでしょうか。

 改めて申し上げると、人材育成や人事評価、賃金制度に関してスポットライトを浴びているものの多くは、大手企業で導入された手法や、アメリカを中心とする外資系企業の影響を受けた内容が反映されています。もちろん、グローバル化や終身雇用の崩壊といった変化の中で、一定の成果を上げたものもあります。

 しかし、連載でお伝えしてきたように、中小企業がそのまま取り入れると逆効果になるリスクがあります。今回はもう一つ、皆さんに考え直していただきたい言説があります。それは、「人事評価の結果はそのまま賃金に反映させる」というものです。

「評価→賃金」の考え方の落とし穴
人事評価制度は何のためにある?

 評価と賃金を結びつけることに疑義を呈すようなことを書くと、「何のために評価制度を作っているのか?」と驚かれるかもしれません。私自身の経験でも、契約したばかりのクライアント企業の経営者の多くが、「評価を行ったら必ず評価結果を昇給、あるいは賞与に反映しなければならない」とおっしゃり、「評価→賃金」のセットで考えています。

 実際、評価結果を賃金に反映することは当然のごとく行われてきました。人事評価制度がある会社であれば、賃金制度のルールとして実践されていることです。しかし、前回の成果主義の話を思い出してください。「良いもの」「常識」と思い込んでいる制度にこそ、落とし穴があるのです。

 そこまで書くと、「山元さんのクライアント企業の賃金は評価を反映していないのか?」と突っ込まれそうですが、もちろん、大半の会社で反映はしています。私がお伝えしたいのは、賃金に評価を反映すること自体が間違いというのではありません。「評価→賃金」という考え方は、人事評価制度の本来の目的、ゴールを誤認してしまっているということを声を大にして言いたいのです。つまり、賃金に反映するために人事評価制度を使うことありきが間違っているのです。

 では「賃金の反映」は本来、どのように位置づけるべきなのでしょうか。

 それは、「経営目標の達成」のためのプロセスのひとつ、いわば手段に過ぎないということです。敢えて強調するために言うと、もし経営目標を達成する目的のために、賃金を反映することが逆効果であるなら、むしろ実施すべきではありません。