「ドル危機」「ドル暴落」。日本のみならず世界の有力紙の紙面に頻出するおどろおどろしいヘッドライン――。

 耳目を引く悲観論の根拠を要約すれば、アメリカの金融機関救済策が、同国の財政赤字を膨張させ、インフレを招き、ドル安を加速させ、果てはドルが暴落し世界経済を混乱に陥れるというものである。 

 だが、果たしてそれは真実なのか。

 9月下旬に中国・天津で開かれたサマーダボス(中国・ダボス会議)における重要な議題のひとつが、まさしく基軸通貨ドルの行方であった。連載第2回の今回はその議論の中身をつぶさに検証してみたい。

112円へのドル反発もある?
対ユーロでは1カ月で5%上昇

 結論から言えば、サマーダボスで耳にしたドルの先行きに関する見解は、総じて、“悲観色”が薄かった。

 ずばり「Looking beyond the Almighty Dollar(全能なドル=口語で「万能のお金」の先を見通す)」と題された9月28日のセッションには、日米中そして中東の金融関係者らが壇上にのぼり議論を交わしたが、明らかな悲観論者は朱民・中国銀行副行長(副頭取に相当)ぐらいだった。

 前回も言及したが、同氏は、金融機関救済のために米政府が投入する公的資金の規模は、金融安定化法が定めた最大7000億ドル(70兆円)―そのうち第一弾の資本注入に使われる額は2500億ドル(25兆円)――では済まず、最終的には1.8兆ドル(180兆円)に膨れ上がると見ていた。その結果、インフレが深刻化することから、「ドルの重大な弱体化(significant weakness)が今後18ヵ月間にわたり続くだろう」と予測していた。