「戒厳令は諸刃の剣と言えるでしょう。戒厳令によってウクライナ軍が国防のためにより効率的に動けるのなら、ポロシェンコ大統領の支持率はアップすると思います。逆の場合も考えられます。戒厳令が結果的にウクライナ軍や司令官の能力不足を露呈してしまう可能性です。その場合、ポロシェンコ大統領にとっては大きな打撃となるでしょう」(ルトセヴィッチ氏)

 インターニュースのイェルモレンコ氏は、ポロシェンコ大統領が切った「戒厳令カード」は、来年3月に予定されている大統領選挙には大きな影響を与えないだろうと語る。ポロシェンコ大統領の支持率低下はどうにもならないレベルに達しており、戒厳令が大統領の人気を奇跡的に回復させることは現実的には起こり得ない話だと断言するイェルモレンコ氏は、大統領のレームダック化の背景を4つのポイントで指摘する。

 イェルモレンコ氏が最初に指摘したのは、一般的にウクライナ人が政府というものを信用していない点であった。これはポロシェンコ政権以前から続く問題で、国民は国家としての基盤の弱さを理解しているという。2点目は、ロシアによるクリミア併合や東部の不安定化によって、限られた国家予算内で軍事費の割合が大きくなり、結果として福祉関連の予算が大幅にカットされたこと。3点目は、ポロシェンコ政権が掲げた政府改革や汚職の廃絶が全く成功せず、とりわけ警察や司法関係で汚職がより蔓延するようになったウクライナ社会の現状。4点目は、誇張した情報からフェイクニュースまで、ポロシェンコ政権を糾弾するさまざまな情報が、メディアやブロガー、ボットなどによってロシアから連日ウクライナに発信されている情報戦の影響だ。

「戒厳令は大統領選を中止に追い込みたいポロシェンコ大統領の政治的な賭けだという声もあるが、それは間違っている。来年3月の大統領選挙はウクライナ議会によって投票日が決められ、政治システムの点からも大統領がそれを覆すことは不可能だ。選挙前の支持率回復を意識した可能性は否定できないが、いずれにせよ、戒厳令では何も変わらないほどウクライナ人の政府や大統領への不信感は高い」

 ポロシェンコ大統領もプーチン大統領も、国内では支持率低下に直面している。プーチン大統領にとってもシリア問題への積極的な介入やウクライナに対する強硬な姿勢は、「強いリーダー像」を国内外に示すチャンスである。しかし、支持率が思うように上昇しない現実が存在する。領土問題で火花を散らすポロシェンコとプーチンだが、皮肉にも自国での支持率低下という点だけは共通している。