疲れ切っていれば当然、優秀な医師であっても人為的ミスの可能性は増えるし、患者への気配りも十分にはできない。医療現場の働き方改革は、医療安全の推進においても重大な意味を持つのである。

 そこで筆者はこの秋、医療現場の働き方改革の進捗を探る試みとして、「医者に対する産業医面談」の実態を取材してみた。産業医面談は、50人以上のスタッフが働く病院では、必ず実施するよう義務付けられているにもかかわらず、「有名無実化している」との噂(うわさ)を耳にしたからだ。「医師は同業者である産業医に面談されることを敬遠する」というのが理由らしい。

 首都圏にある大病院を中心に取材を申し込んでみたが、「産業医面談は機能していない」「働き方改革に、目に見える進展はない」との回答ばかり。そんな中、唯一話を聞かせてくれた公立の某大学病院では、2人の産業医と1人の精神科医を中心に、臨床心理士や精神科看護師らも加わり、チームで医療従事者や学生のサポートにあたっていた。

「他の病院ではどうして産業医面談を実施していないんですか。義務なのに、不思議ですね」

 産業医は、逆に、意外そうに尋ねて来た。実際に「なにか問題はありますか」と投げかけると、医師たちは積極的に答えてくれるのだという。

「面談では、ご本人の健康チェックだけでなく、長時間働かざるを得ない職場環境やシステムの改善にアプローチしていく姿勢を大事にしています。本人からは上にあげにくい問題も、我々なら言えますからね。これだけ率直に話してもらえるのは、職場の仲間だからこそかもしれません」

 もしも医師たちが、相談してもどうにもならないと諦観していたら、多忙な時間を面談に割くのはムダと思うはず。

 同院で産業医面談のシステムが有効に機能しているのは、過重労働等の問題を、一個人・一部署の問題のように矮小(わいしょう)化せず病院全体で対応するよう努め、面談結果が業務改善にしっかりと生かされている証拠なのではないだろうか。

 超過勤務の問題は、医療の質に影響する問題として、病院の幹部も入った安全衛生委員会でも議論されているという。